少年の主が初めて見たピーターは、金色の髪をしていた。
変幻の栞、という機能がある。
ワンダー部やリリィフェスタなどで入手できる解釈/衣装を封じ込めた栞で、適用させたキャストをその見た目に変更させる事が出来るアイテムである。その内容によっては髪色や瞳色が変わることがあり──少年の主がはじめて見たピーターはその変幻の栞が適用された姿だったのだ。
少年が知るより赤みの強い、陽だまり色の髪のピーターに驚きを抱いていたようだった。
金色の髪のピーター。白い服に白いマフラー、紅いアクセントの装い。
変幻の栞Aと呼ばれるそれは──"購入"で入手出来るものではない。
CR20踏破報酬。はじめての昇格試験突破の祝いに、キャストに与えられるものだ。
今でこそ、"金髪のピーター"を手に入れるだけであれば瞳の色が青になってしまうが、"アフタースクールB"がある。しかし、当時"金髪のピーター"は衣装カラーAの中にしか存在しなかった。
「──あの日から、白を纏い金色(こんじき)を背負う俺は何時かの夢で。
目標で、理想で、願望で──晴れの装いだった」
CR15くらいで一度負けが込み、先輩方に頼み込んで訓練させて貰った事もあった。
やっと昇格試験に合格し、与えられたその服を、数日もしない内に脱いでしまったこともあった。
それを纏う自分に納得が行かない、と。
その後に金髪になれる別衣装"アフタースクールB"が実装されたことは、少年のその意識に拍車をかけた。駆けだした時から追い求めた栞は、手の内に収まってからも本の片隅にそっと大事に仕舞われ、栞として挿されない日々が長く続いた。
胸を張って背負う日には着るのだろう、と思っていた。
しかし、金筆の後半になっても胸を張って自分がすべて背負うと考えるような世界は訪れなかった。
実力を詐称してあの世界に立っていた者もいた。
そもそもサポーターというロールは負け筋を潰す立ち位置であって、強引に勝ち筋を引き込むような立ち位置が正常なサポーターではなかった。
何よりピーター自身が、上の世界を見過ぎていた。
(もっとうまくやれるよ)
(味方に恵まれているだけだ、未だ勝たせて貰ってる)
(あの仔と組んで勝てないのは、俺が背負えていないからだ)
白金を何時までも神聖視し続けていたら、そのままEX00まで来てしまった。
「ルビーのEX00、って立場は新しいマッチングの一番下。
此処は新しい世界で、新しい常識があって、そして俺は新人で──」
誰よりも弱く、背負われ、その代わり望まれた務めが果たせるならば一番勝ちに近い地位。
勝ち筋を作るのが難しいが、負け筋は呼び込みやすく、また負け筋を潰すことは出来るサポーターの4番という日々は新鮮で輝いていた。
何より味方も敵も誰もが強くて、生き生きとしている。敵はみな隙に目を光らせていて、試合が、駆け引きが、戦略が息づいている。
金筆の戦場が楽しくなかったとは言わない。
しかし、新しい戦場はもっと輝いて見えた。
「のめり込んでその世界に没頭したけれど、白の装いを纏う日はもっと想像がつかなくなっちまった」
EX01になり、時々4番ではないことも出てくるようにはなったけれど。
これを纏うのは何時になるだろうかと、考えるくらいには──非日常の装いになりかけていた。
けれど、今少年の目の前にはその白の装い。
緊張の面持ちで袖を通す。装いと同じ白いマフラーがふわり風に靡く。
「準備が出来ておりますわ。入りましょう?」
この協奏に誘ってくれたリンが、柔らかに微笑むシャドウ・アリスと、物言わず佇む闇吉備津と待っている。
少年の主がこの世界に入った切っ掛けその人と、その人のホーム仲間たち。
何時かこの世界が終わる間際にでも、彼等と同じ舞台に立てればいいなと"夢見て"はいた。
全国の地で出会うにはまだまだ遠く──されど此処は協奏闘技場(R:バトルオペラ)。絆が繋げば夢叶う特別な舞台。
嗚呼、時よ止まれ!そう願う程のこの晴れの日に、寧ろこの白の装い以外相応しいものがあるだろうか!
「今行くぜ!」
白を纏って飛び出す少年は、何時の時よりも晴れやかで煌めきに満ちていた。
* * *
Special Thanks ブランデー・クラスタ のみなさま
ハムテルくんさんさま むっくさま Tikinさま
ブランデー・クラスタ。カクテルの名前であり、その意味は「時間よ、止まれ」
4人協奏のお誘いを12月に推し様がたから頂いていました。本当に有難う御座いました……!
ワンダー部にショートストーリー投げると決めた日から、何時かこの御礼もテキストにしたかったのですが
このタイミングじゃないとダメだな、と思って今夜上げます。その節は本当に有難う御座いました。