◆ ファイターの中央への干渉は、自分の担当する手前拠点を取るなど余裕を作り、
自分の護るべき拠点が大丈夫かどうか考えながら計画的に行ってください。悪童よりのお願いです。
試合も終盤。なんとか中央の手前をフックとジョーカーから掠め取る事が出来たが、未だ2分と少し試合時間は残っている。
相方のマリクは裏取りを始めたリンを咎めねばならない。その支援は望めないなか、ゼーレの復活する1分33秒まで──銃と風、己の力だけで後30秒程を耐え抜かねばならない。
全てはチームゲージの半分程を有する、中央特大拠点を護る為……
「つっても、どうしようか──いっで!?ジョーカー、ワンダースキル中じゃねえか!?」
兵処理の為風を飛ばしたその向こうから蒼い銃弾が飛んでくる。
ワンダースキル中でなければ届かなかった距離に、悪童は更に頭を抱えることになる。
自分が兵士処理を出来る範囲はすべて向こうの射程圏内で、しかも兵士を貫通してくるのだ。
「うぅ……」
派手につるつるの床に倒れ込んでぶつけた頭をさすりながら、起き上がろうとする頭上を何かが跳び越えていった。
「憤慨を纏いし、我が旋風の斧──」
「!」
隕石の如く降り注ぐ、昏き稲妻。対面のフックとジョーカーが強く打ち据えられる。
低く囁くように呟く、ブラーの掛った声色。"彼"だけの声質にはっと振り返る。姿は見えず、唯邪気だけが揺らめきながら離れて行った。
「邪道丸……」
ありがとう、と心の中だけで呟いた。その存在を知られる事はあまり試合としてはよろしくない。
瀕死まで体力を削られたフックが帰還し、ジョーカーがワンダースキルの効果を利用して兵士を止める気のようだ。
あの状態のジョーカーの兵士処理能力は厄介だけれど、我が身もHOLD UPやTAkE hEaRTに捕まった場合は倒されてしまいかねない体力。
下がるべきか、と一度少年は森の入り口を訪ねた。
森のもうひとつの出入り口、視線の真っすぐ向こう側。
揺らめく邪気のただなかで、ただじっと赤い閃光の瞳がちらりと振り返った──
アイアン・フックの弱点が強いてあるとすれば、そのスピードだ。
彼が帰還しその身を癒す間に、少年がエアウォークで飛び込んでその命を狙ってきたり、そうでなくても兵士処理を進め特大拠点を狙ってくる可能性がある。
ジョーカーはその場にとどまり、兵処理を請け負い少年を咎めることを選択した。
森の入り口をゆらゆらと動き、逃げるかと思われた悪童がくるりと踵を返し兵士と共に此方に出てくる。
兵士の横にこそ立ちながらも、ワンダースキル中ではそれはHOLD UPを防ぐ弾避けにこそなれ銃弾から逃れる盾にはならない。
きょろきょろと奥を見ながら前進と後退を繰り返す少年はまるで飛ぶ機を探しているかのようだった。
構える。蒼い銃弾が兵士をなぎ倒して少年に届く。
「うおあっ!?」
少年の悲鳴が上がり、派手に尻もちを付くようにダウンする。
──しかし少年が転がった床の色は、紅色ではなく昏い青紫がこぼれていた。
少年を邪気が完全に呑み込む。明かりを遮る物がない筈の屋内が昏きものに塞がれる。
「邪念を砕け──」
それは完全にジョーカーの頭上を捉えて、逃れることを許さない──
「恐れをなして去るがよい……」
「邪道丸!」
傷付き汚れた服をはたきながら立ち上がる。今度こそ自分の担当のレーンへ立ち去ろうとした邪気に、少年は振り返って声をかけた。
「感謝するぜ!」
返事はなかった。ただ満足げに邪気が立ち去っていくのを少年は見送った。
さあ、一番厳しい30秒を乗り越えた。丁度マリクもリンを倒した処らしい。
傷を癒し、最後の詰めに旅立とう──少年達の最後の攻勢が始まる。
Special Thanks soikoroさま/邪道丸
daikoroさま/パピール
☆EM☆さま/マリク