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4番が勝つ、という勝ち方

by
烏兎@Volksages
烏兎@Volksages
瑠璃筆の相棒の操る、シュネーヴィッツェン。
もう一組のペアの内、瑠璃筆の使い手が操るアイアン・フック。
アイアン・フックと中央を組む、金剛筆の使い手の乗るナイトメア・キッド。

少女シャドウ・アリスの主は紅玉(ルビー)。誰よりも弱く、誰よりも儚い。
少女は何時だって穴であり、何時だってメンバーの中では最弱だ。

そうでは、あるけれど──


対面、瑠璃筆デス・フック。金剛筆邪道丸。金剛筆ドロシィ・ゲイル。そして、金筆サンドリヨン。


"最弱の少女こそ背負う立場である"試合は存在する。




「敵さん、強いですね」
「そうだね、強いね。……ううん、違うね」

相棒のシュネーヴィッツェンに刹那を託す。アイアン・フックが彼の相棒のナイトメア・キッドと語らっている。
またね、とシュネーヴィッツェンに背中を向けてシャドウ・アリスは視線を上げた。

「私が勝つんだ。私がこの試合を動かすんだ」

少女はこのチームの最弱である。だがしかし、少女の対面もまた──相手チームの穴でもある。
相棒が耐える。少女が勝つ。それで、あの有名なデス・フックに中央が勝てなくたって──少女達は勝ちを掴める路を拓くことが出来るのだ。









ブースターの端を踏め。森を斜めに横切って進め。弾ける星の魔法で兵士を転がし、そのダウンを取って兵士弾を防げ。
少女は緊張の面持ちで立ち上がりを熟した。狙い通り、自軍兵士だけが兵士弾を放ち……序でに兵士列の位置が相手の想定とずれたのか数体分の兵士処理差が生まれる。
シャドウ・アリスの星の軌跡は兵士をダウンさせない。丁寧になぞれれば一番だけど、焦りで膨らむ前の線をケアするように、線を重ねる。
結局レベル2になってはじめて大兵士が現れてくるころ、お互いの兵士処理の差は無くなってしまった。
一回分のダウンの差、牽制と大兵士処理を兼ねるウィークバルーンは──大兵士に当たる前に別の兵士にぶつかってしまった。

「ううん……もうちょっと丁寧に……」

少しでもデス・フックの引き寄せ攻撃──"獲物"の起動を遅らせたい。
その為には相手のレベル3を遅らせる他存在しない。逆レーンの相棒もきっと同じことを考えて、詰めに詰めている筈だ。
キャンセルドローにサンドリヨンがひっかかり、よろけたのは幸いだった。
兵士処理に見せかけた星の軌跡で相手の体力を削り、よろけた隙に星の魔法をぶつけて吹き飛ばし。
自身は飛び退って水晶の軌跡を躱す。このダウンひとつの差が優位を拡げる。


「出来れば、倒れて、欲しいんだけどな……ッ!」

向こうのレベル3が来てしまった。なんとか悠久の手前拠点は奪い取ったが、この時を待っていたとばかりに裏回っていたらしいデス・フックがアイアン・フックを引きずり込んで倒し、助けようとしたナイトメア・キッドすら蜂の巣の餌食にしてしまった報告が響く。

「申し訳ねェ……!」
「……ごめんね」

中央が二人ともやられてしまった。中央レーンに立ち寄り、手助けをすべきだろうか。一瞬悩んで道を下がる。
頑張って積み立ててきたレベル差がひっくり返ってしまった報告を耳に、はっと少女は引き返した。


「もっと魂を集めなくっちゃ──危ないけれど、今さがっちゃだめだよ」


せめてナイトメアの復帰に一刻も早くレベル4/エンドルフィンを捧げなくっちゃ。
少女は駆けた。








実際の処、デス・フックは未だ半壊で済んでいた刹那の手前拠点の防衛を選んだ。
果敢に攻め立ててくれていたであろう相棒も、流石にレーナーと森から突進してくるデス・フックの両名は捌ききれない。
彼女の敗走の報を聞く。ナイトメアがカバーに行ってくれているみたいだけれど……


「刹那の手前、捨てましょう!ナイトメア、貴方まで死ぬ必要はありませんから!」
「……悪いな」

レベル5、敵先行。
一撃の重さの差と体力の差が、どうしても命の削り合いとなっては響く。
死ぬわけにはいかない。自分だけは、この優位を手放すわけにはいかない。

「もう一度、やりなおし──だね──」






あれからデス・フックは中央の手前を無傷で守り通しながら繰り返し相棒の処にちょっかいを出しているようだ。
対面の邪道丸の邪気も育ちつつあるのだろう、攻めあぐねる彼女の様相がミニマップに報告されている。
戻ってきたら2列くらいの兵士が重なって歩みを進めて来ている。

「とっておきの秘密、かな?」

レベル4で解禁されるシャドウスナッチはドローショットの射程と描画距離をヒット数に応じて伸ばす強化スキルだ。
更にドローショットがキャストに対してのみダウン属性に切り替わる。

少女のビルドは一般的なものから少し遅れた、数期前のビルドだ。
一般的なシャドウ・アリスより足で劣るが周年記念のソウル"カイ"がもたらすドロー消費MP軽減が少女の手数の戦いを支える。
幾度かサンドリヨンのボールドレスアップの爆発に吹き飛ばされ、傷を負いながらも少女は詰めた。
終点爆発の相手のスキルは、最後にのみ爆発する為に爆発を当てたいとなると短い直線的なドローにならざるを得ない。
懐に飛び込むことで爆発を避けることを試みた。

「にゃんでこうなるかなーッ!?」


……結局は目の前でドローを相打ちしたのだが、既に奥拠点は目の前。
しんどいくらいには傷付いたが、レベル6まで後目盛りは2つ分。デス・フックは中央だ。
明らかにアイアン・フックが挟まれて襲われていてしんどそうだが、体力的にはもう少し持ちこたえてくれるだろう。

(賭けよう)

シャドウ・アリスは立ち上がった。これはリトル・アリスの真似事だ。
そしてこのレーン戦の──王手(チェックメイト)。

「にゃーっと鳴いたら、そろそろ勝負の決め時だよ」

ページのインクが文字のかたちで少女の周りを舞う。魔杖を振りかざし、くるりと回って踊ったら──護りの覆いさえ突き破って大きな少女/わたしが現れる。
目の前の兵士を蹴散らして、驚いて相手が引き下がってしまえば──少女はもう相手の拠点の前でとおせんぼするだけでいいのだ。
少女の体力は其処まで残っていなかった。だから、恐れずにドローを描かれていたらやられていたかもしれない。
けれど相手は驚き退いた。少女は賭けに勝ったのだ。


「さ、サンドリヨンさん。もう少しだけ、遊びましょ?」


背後で自分の兵士達が拠点に辿り着くのを音だけで聞き届ける。
やりきった。やり遂げたのだ。



……なお、賭けの間にずっとデス・フックの横槍を引き受けていた相棒がやられていて相棒のレーンを助けに行かないとヤバかったことに気付けず。
助けられたかもしれない刹那の奥拠点を半壊させてしまっていたことは、今後の改善点ならびに反省点として書き残しておくことにする。



   *   *   *

 ペン差が付いている処が正しく勝てる。バトルオペラにおいて、必要な勝ち筋のひとつなんだろうな。
 しかし、自分視点をショートストーリーで描くのは大変難しい。まだまだ戦いが泥臭いので、どうしても……
 逆に言えばデス・フックが此方を見向きもせずに中央と刹那を押し、刹那貫通を狙い続けたのは非常に正しくてキルダメも痛くてしんどかった
 刹那手前が取れてやっと逆転出来たくらいの戦況だったので……大変危なかった……


Special Thanks  ハルジオンさま/ナイトメア・キッド
            盈燈さま/アイアン・フック
           ☆EM☆さま/シュネーヴィッツェン
作成日時:2023/02/01 02:36
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