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「これがランカーの力だ」と彼らは言った

by
烏兎@Volksages
烏兎@Volksages
時と共に花咲き、実を結ぶバフ──百年の眠りとは、そういうバフだ。
主が枯れるか、対象の死で途切れる成長する恩寵はハイリスクハイリターン。
その恩寵を受けたロビンの矢は一矢でキャストを仕留める事もあり、何処かで歪ませなきゃならない歯車だ。
しかし、格上のエピーヌに対して金筆から上がりたての少年には少々荷が重すぎた。

折角僅かまで残すことが出来た拠点も、粉を消すためのエアウォークの着地を咎められ自分がやられてしまっては手放すほかない。


「中央手前捨ててくれ!本当に申し訳ねぇ!」
「うん、わかったー」
「了解!」

謝罪の叫びに、相方とシャドウ・アリスが応える。
復帰までのわずかな微睡み。存在しない時間から引き戻され、少年は羽根に護られながら舞い降りた。
真っすぐ見えた中央の戦場。敵兵士が手前の拠点に入っていくのが影のように見える。
しかし、完全に降り立ちその光と影の世界が消え去った時に聞こえたのは──








「ひゃぁ!」

無事拠点を落とした、という安心からだったろうか。
それとも注意がなく、その奇襲は完全に彼女の意識しなかったものであったのだろうか。
エピーヌの唐突な悲鳴とダウンに、復帰したアタッカーに対応する為森に入っていたロビンが、その悲鳴に慌てて森から飛び出す。
悪童は射貫かれたばかり、シャドウ・アリスは刹那のレーンにいて、アタッカーの復帰を咎める為森に籠り実際咎められていたはずなのに──


「悪いな、イイトコは俺が独り占めするものさ」


残り時間4分10秒。約2分かけ、やっと花が実を結んだ筈だったその時間。その果実をもぎりに現れた者。
悠久レーナー、ランプの魔神の使い手──

深雪乃に見張られながらもどうにか護ろうとするロビンを翻弄するように、口笛を吹きながら飛び込む若者。
放たれたダブルショットよりも僅かに早く、花は欲望に摘み取られた。
一瞬後に吹き飛ばされる彼も、悲鳴を上げながら唇は笑みに持ち上げられていた。

「……ふ、此れがランカーの力ってな」

再び芽吹く蕾が花開くまで、幾何かの時間を要するだろう。
ジーンは振り返る。其処には無傷の敵軍の中央手前拠点がある。
レーナーとして咲く事も出来ない蕾からなら、幼い風の子でもあれを掠め取る事が出来るだろう。
連携を考えるならばロビンも帰城を強制され、実質数秒居ないも同然。ロビンを牽制していた深雪乃がロビンを振り切って刹那に駆けるのにもまた、ジーンは笑みを深めた。

「──さあ、続けようじゃねえか。望みを果たしたいなら、遊びじゃあ済まないぜ?」


























マスタースキル、インプルスゼーレと移動スキルエアウォークのお陰で迅速に兵士を処理しながらジョーカーを翻弄し手前拠点に僅かな兵士を導く事が出来た。
しかし削れたゲージが切っ掛けか。回復双汽唱の巨人が中央に現れた事にピーターはあからさまに眉をひそめた。
少年は余り、巨人処理を得意としない。試合の始まりから終わりまで、銃と風のみで戦うピーターには特別有効な巨人処理の手がなく、ただ真っすぐ抗う他ないのだ。
拠点裏の兵士を枯らす。展開していたゼーレは巨人の到着まで持たないだろう。
どうしたものかと悩むピーターの耳に、こつこつと煉瓦の森に靴音を鳴らして寄る者があった。

「巨人さんを倒すよ」

手を差し伸べる年上のように微笑むシャドウ・アリス。
どうしてここに、というより早く、彼方から盛大に崩れ落ちる音が響く。
シャドウ・アリスの請け負っている悠久のレーン、その奥拠点が破壊されていた。

「担当のお仕事、終わっちゃったから」

なんでもないことのように、彼女は笑って中央レーンへ。
ピーターが周辺の兵処理を終えているのを確認して、ウィークバルーンと星の魔法(R:ドローショット)。

「それじゃ、ピーター。後はよろしくね?」

魔法の軌跡をクロスドローの為に残して、少女は下がっていく。





其処には敵のレーナーのジーンがいた。
森から渦を拡げようとしていたところをもう一人のジーンに咎められ、深雪乃に追われ、ゼーレとエアウォークで急にピーターがレーンを上げた為に彼の相方のジョーカーとも引き剥がされていた処だった。
ワンダースキルを切っての魔神化である手前、タダで引き下がるのも惜しく惑う彼に、少女はとことこと迫る。
迫る。迫る。ただ迫る。迫るだけ。少女の魔法は悪童に貸し与えたから。
両手に杖を抱えて、にこにこと追い立てる少女。星の魔法を軌跡としてピーターに贈り使えないことは、敵のジーンには分からないのだ。
とうとう追い立てられてジーンの目の前には深雪乃の姿。

「真剣さが足りない!」

一刀の下に切り伏せられるのを見送って、少女は「うん」と深雪乃に背中を向けた。

「そろそろ帰るね、お仕事に戻らなくっちゃ。あの子と遊んであげないと、退屈させちゃうよ」

少女の武器は、攻撃しないこと。唯軽やかに攻撃の届くと届かないの間を跳ね、誘い、堕とす、魔性の猫。
遊ぶと形容されるに相応しい彼女の戦いはもう少し続くのだろう。












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 最終ランキング 6位おめでとう御座いました!2本立て。
 
    Special Thanks    珍宝銀銀丸さま/ジーン
                  もくさま/シャドウ・アリス
                 アウトロウ/深雪乃
作成日時:2023/01/30 14:33
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