wicked truth (Wonderful wizard of OZ)
執筆予定の『Rain above the Sky: Forbidden ALICE』より
……という設定で()
人物紹介 ※内容にはあまり関係ない
PLEASANCE (BIG ALICE)
プレザンス (ビッグ・アリス)
『恐るべき子供たち計画』によって生み出されたキャスト。
身体も精神もアリス・リデル自身のものだが、洗脳による「戦士」としての自覚とそれに伴う運動能力・戦闘技術を身につけさせられ、潜入任務の遂行にあたった。〈【地下の国のアリス】〉
今回はルイス・キャロルからの依頼に応じて作戦に参加している。
身体は地下の国のアリス・リデルと同じで、精神は晩年のアリス・ハーグリーヴズのもの。ただ身体の影響か、精神年齢や言葉遣いが若返っている。ロリババア
能力や技術は残されているが、洗脳は残っていない。
MAGUS CROWN
マグス・クラウン
キャストに関する知識でのサポート役を担当。
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(Trr...Trr...)
PLEASANCE
「マグス、少し聞きたいことがあるのだけれど」
MAGUS
[なんだい?]
PLEASANCE
「さっき倒したのが
西の魔女なら、
ウィキッド・ドロシィは何者なの?
彼女が
西の魔女かと思っていたわ」
MAGUS
[そのままさ。
ドロシィだよ」
PLEASANCE
「?」
MAGUS
[
魔女狩りの称号を持つ者……
西の魔女を倒したのは彼女だ]
PLEASANCE
「【
オズの魔法使い】では
東の魔女と
西の魔女を
ドロシィが、いや
トトを連れたドロシィが倒した
とされているけれど」
MAGUS
[ああ、表向きはそうなってるね。
その辺の事情は、話すと結構長くなるんだが]
PLEASANCE
「少し休憩を取ろうと思ってSENDしたの。
だから、続けて」
MAGUS
[………分かった。
君は【
オズの魔法使い】を読んでるんだったね]
PLEASANCE
「ええ。出版当時はもう
童話を読む年頃ではなかったけど。
【
不思議の国のアリス】をリスペクトしている
と聞いて、読まないわけにはいかなかったわ」
MAGUS
[【
オズの魔法使い】によれば、
西の魔女は
ドロシィにバケツの水をかけられ
体が溶けて、死んだとされている]
PLEASANCE
「そうね」
MAGUS
[ところが実際には死んでいなかった。
死んだように見せかけていたんだ]
PLEASANCE
「つまり、一種の仮死状態だったってこと?
なんというか……すごいやり方ね」
MAGUS
[この作戦のためだけに開発された魔法らしい。
その魔法をかけられた者は、水に触れると
体が泥のようになって溶け崩れてしまう。
何もできないし意識も無くなっているけど、
その場でトドメを刺されることもまずない。
それに、
ドロシィが掃除をしていったおかげで
彼女が生き返った痕跡も残らなかったんだ]
PLEASANCE
「なるほど。まあ、偽装としては完璧だったと。
ただそれって、蘇生は他人任せということよね。
彼女には、自身の生死を預けられるほど
信頼できる仲間がいたの?」
MAGUS
[ああ。
南の魔女グリンダ……
彼女の最大の協力者だ。
表向きは敵対していたけどね]
PLEASANCE
「
南の魔女……
東西南北の4人で最強の?
あの2人が組んでいたとは驚きだわ。」
MAGUS
[実は、彼女たちは旧知の仲でもあったそうだ。
魔導学校で同期だったらしい]
PLEASANCE
「……さっき『表向きは』って言ったけど、
2人は裏で何か企んでいたの?」
MAGUS
[ああ、最初は
北の魔女とも協力して
3人でクーデターを画策していた。
オズが詐欺師だと知っていた魔女たちは、
オズの正体を民に暴露して
政権を乗っ取ろうとしていたんだ]
PLEASANCE
「
東の魔女は?」
MAGUS
[
東の魔女はクーデターに反対した。
だから口を封じられたのさ。
彼女に罠を仕込んだのは
北の魔女だ。
もっとも、その『クーデター』というのも
真っ赤な嘘だったんだが]
PLEASANCE
「ペテンだらけの国ね」
MAGUS
[確かに魔女たち3人はクーデターのために
水面下で活動していた。でも本当は、
南の魔女と
西の魔女だけが仲間だったのさ。
北の魔女は最初から切り捨てるつもりだった]
PLEASANCE
「つまり2人には別の目的があった、と」
MAGUS
「そう。だけど先に
北の魔女が2人を裏切った。
ドロシィに超強力な魔導防壁を張りつけ、
西の魔女への刺客として仕立て上げたんだ]
PLEASANCE
「裏切り……さっきの偽装工作は、
その
裏切り者を騙すための作戦だったのね。
にしても、なぜそんな回りくどいことを?
北の魔女を倒せば防壁を剥がせたはず」
MAGUS
[そう単純にいかない事情がいくつかあったのさ。
それに、下手に争って事を大きくするよりも
いっそ死んだことにして歴史から消えた方が
彼女たちにとっては都合がよかったんだよ。
"表"の顔を演じる手間が省けるからね]
PLEASANCE
「………2人の真の目的とは、いったい」
MAGUS
[現国家を一度滅ぼし、再構築すること。
国をイチから造りかえようとしたんだ]
PLEASANCE
「つまり、革命を起こそうとしていた?
それほど体制が気に入らなかったのね」
MAGUS
[ああ。実際、健全といえる状態では無かった。
国のトップが情報を独占していて、
鶴の一声で簡単に世論を操作できた]
PLEASANCE
「独裁、か」
MAGUS
[2人の魔女たちはその独裁を潰そうとしたんだ。
民主化運動ということだな]
PLEASANCE
「………」
MAGUS
[
ドロシィ・ゲイルが国を去ったあと、
2人の魔女は合流し、独立国家を形成し始めた]
PLEASANCE
「当然、エメラルドの都は黙っていないでしょう」
MAGUS
[ああ。だが、正面から戦っても
勝てる見込みは無かったんだ。
非常に優れた能力を持つ翼猿たちが、
独立国家側に味方していた]
PLEASANCE
「なぜそっち側へ?」
MAGUS
[
南の魔女から受けた恩に報いるため。
翼猿たちを解放したのは
彼女だからね、
進んで協力していたんだよ]
PLEASANCE
「そうだわ、
南の魔女が
金の帽子を翼猿の王に還したんだった」
MAGUS
[『金の帽子』、
翼猿たちに3回まで命令できるアイテム。
昔から彼らはその呪縛に囚われ続けていた。
それこそ何年前かも分からない
頃から自由を奪われていたんだ、
解放されたときはさぞや嬉しかっただろう]
PLEASANCE
「恩を売って味方につけていたのね」
MAGUS
[とにかく正面から戦っても勝ち目は薄かった。
国の諜報機関は"悪い魔女"を葬るために
一人のエージェントを送り出し、
内部からの崩壊を目論んだ。
そのエージェントこそ、
ウィキッド・ドロシィ]
PLEASANCE
「……待って、まさか、
ウィキッドも……!?」
MAGUS
[いやいや、
リトル・アリスたちとは違う。
彼女は
クローンじゃあないさ。
ドロシィの名は、コードネームにすぎない。
東西の魔女を倒した英雄の再来ってことだな。
ゲン担ぎだね]
PLEASANCE
「そう……では『ウィキッド』の方は?」
MAGUS
[
彼女は
西の魔女の弟子だったんだ]
PLEASANCE
「……それって皮肉じゃない!」
MAGUS
[だが
彼女はウィキッドの名を受け入れた]
PLEASANCE
「どうして!?」
MAGUS
[
彼女自身は
wicked
『
あの人はいたずらが好きだったから』
と言っていたらしいが……
まあ、本当のところは分からないな]
PLEASANCE
「………」
MAGUS
[とにかく、
彼女は
ウィキッド・ドロシィとして任務に出た。
敵である独立国家の実力調査/無力化、
そして]
PLEASANCE
「かつての
師匠と、その
親友の抹殺……」
MAGUS
[
彼女は、見事に任務を全うした。
だが平和は訪れなかったんだ。
北の魔女が暴走を始めた]
PLEASANCE
「暴走……なぜ?」
MAGUS
[『闇』さ。心を『闇』にとらわれていた。
多くの嘘と裏切りにまみれ、
かつての盟友を全て失ったことに、
彼女の心が耐えられなかったんだよ。
そして狂気に任せて恐ろしいものを造りあげた。
ヴィランだ]
PLEASANCE
「ヴィラン……!」
MAGUS
[そう。今は『闇』を取り除かれて
<貫通光巨人>として運用されている、ね]
PLEASANCE
「そのヴィランの処理も
ウィキッドが?」
MAGUS
[ああ。
北の魔女も
彼女が始末した。
……
本家を超える〔
魔女狩り娘〕、だな]
PLEASANCE
「それでようやく平和になったのね」
MAGUS
[いや……混沌に堕ちた]
PLEASANCE
「まだ続きが!」
MAGUS
[4人の魔女が全員死んだことで、
国が緩やかに崩壊していったんだ。
正確には、民が外へ流出していったのさ。
人口が減って治安も悪くなり、
無法地帯と化していった]
PLEASANCE
「そんな……」
MAGUS
[文明化のおよばぬ幻想の国は、
魔女たちの加護によって形を保っていたのさ。
それが無くなった跡には……何も残らない]
PLEASANCE
「……
ウィキッド・ドロシィは、
彼女は、どうなったの」
MAGUS
[
彼女は残った。
残って、荒廃した故郷で悪党と戦い続けた。
死ぬまでね。
……君が会ったのはこの時期の
彼女だ]
PLEASANCE
「………」
MAGUS
[すまない。休憩にならなかったかな]
PLEASANCE
「いや……私から頼んだんだもの」
MAGUS
[任務に戻るのは落ち着いてからにした方がいい。
ああ、あと
彼女の右目についてなんだが]
PLEASANCE
「右目?薔薇柄の眼帯を着けていたけど」
MAGUS
[あれはただの眼帯じゃない、
望遠鏡などの機能を持つ超小型ゴーグルだ。
彼女の右目は普通に見えてるんだよ]
PLEASANCE
「つまり右側は死角ではないと」
MAGUS
[ああ。惑わされないようにしてくれ。
それと……]
PLEASANCE
「?」
MAGUS
[……僕たちはずっと君の味方でいるつもりだ。
絶対に裏切ったりしない]
PLEASANCE
「わかってるわ」
MAGUS
[それじゃ、頑張って]
{End of Communication}
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文字通り死んだように静まり返った城内ではどんなに気をつけても足音が大きく響いた。暗闇だから余計に大きく聞こえたのかもしれない。
ウィンキーの兵士達は撤退させたのでいないはずだが、それでも物陰に人の気配を感じずにはいられなかった。盗賊が潜んでいる可能性もある。
もし戦闘になったら勝ち目はない。あいつと違って接近戦は苦手なのだ。
しばらくして目的の壁にたどり着いた。辺りを警戒しつつ、隠し扉を押して中に入り、封印を施す。扉のわずかな軋みすらうるさかった。
目の前に落ちた水滴が、自分の冷や汗だと気づくのに時間がかかった。
自分が仕掛けた罠を丁寧に解除しながら、螺旋階段を一歩ずつ慎重に上がっていく。ここまでくれば安全だとは全く思えなかった。なによりも、あいつの生命がかかっているという責任感がより緊張を煽った。
階段を上がりきった先にうっすらと黄色い光が見えた。ようやく着いたのだ。嬉しくてつい小走りで駆け寄ってしまった。
魔法陣の状態を確かめる。ハッキング等の痕跡はない。劣化もない。
術式の準備を終えたら、目を閉じて深呼吸し精神を整える。失敗はあってはならない。これは新しい『日の出』を迎えるための、重要な『任務』なのだから。
シェル、水圧・魔圧共に正常。
ビルダーへの燃素供給は正常。
ビルダー用防塵装置への魔力供給、異常なし。
ノイズなし。
診断、蘇生術式に問題なし。
もういちど深呼吸してから、目を閉じ、術式を開始する。魔法陣が淡く輝きだした。まるでこちらの願いに応えるかのようだ。
背後で何か奇妙な音がした。振り向くと、床に泥がへばりついていた。なんのことはない、溶けたあいつの体が集まってきているだけだ。
すぐ術式を再開したが、泥が脚に這い上がってきて思わず飛び上がってしまった。体の向きに気を配るべきだった。
そういった軽微なアクシデントを挟みつつも、術式は順調に進行していく。
体を這う泥がくすぐったく思えてきたところで術式終了。目を開けると、あいつが仰向けに倒れていた。動かない。水筒の水を顔にかけてやると、意識を取り戻した。むせながら泥を吐き出し、うつ伏せになる。
蘇生は成功だ。
「………泥まみれだぞ、レナ」
「そういうあんたもね」
レナ、か。『南の魔女』『グリンダ』ではなく本名で呼ばれるのは何年ぶりだろう。
まだ泥が詰まっていたのかアリスが激しく咳き込んだ。咳をするだけの体力が残っていることに少し安心しつつ、手を差しのべる。それに反応してアリスも手を伸ばすが、触れる直前で止めてこちらに顔を向けてきた。
その表情に、どこか……懐かしさを感じた。
「言ってくれ、レナ」
「待たせたな」
Kept you waiting, huh?
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WONDERFUL WIZARD IS
WATCHING YOU
“W-W!‥‥W-W!‥‥W-W!”