これは、怪童丸が改造丸されたお話。
金『はっ、ここは一体…』
目を開くと、まず認識できたのは
薄暗い天井。
白いのか灰色なのか、よくわからない
タイルが闇の彼方へと続いていた。
喉が痛い。
起きて水を飲もうとするが、
全く体が起きない。首を向けると
オレっちの腕に硬いベルトが
巻き付いていた。
体中の至る所に同じ感触を感じる。
オレっちは、拘束されていた。
院長『目が覚めたようだな』
頭上を、影がさえぎった。
コート…いや、白衣?を着込んだ
初老の男がコチラを覗いていた。
金『ア、アンタは?』
院長『俺はフック。フック院長だ』
ここは、病院なのか…?
院長『混乱しているだろうが、
今しばらく辛抱してくれ』
なに、すぐに終わる…
そう言うと男は己の片腕を頭上に
掲げた。
院長『アーム・チェンジ!
執刀モードォッッ!!』
院長の片腕は瞬く間に形を変え
メスや鉗子、ドリルが連なった
禍々しい物へと変形した。
ドリルのモーター音がオレっちの
腹部へと迫る中、数時間前の記憶が
走馬灯のように頭に浮かんだ…
…
……
………
店長『余のカレーだ。
受けとるが良いッッ!』
ドンッとカウンターに差し出された
カレーは黄金の香りに満ちていた。
友人の紹介で立ち寄ったカレー屋の
店内は、雨の影響なのか店長の言動が原因なのか、まばらであった。
店長『となりの客人はいつも通り
ナンを吉備団子状にしてやったぞ』
桃『感謝致す!』
堪能するがいい、と店長は
絨毯に乗って厨房の奥へと消えた。
MPの無駄ではないかと思った。
金『よう、桃の字。飯食いに行くっ
て言うから和食かと思ったが…』
桃『行き倒れていた俺を、ここの
店長が助けてくれたのだ』
それ以降、カレーにハマったらしい。
意外と店長は良い人なのかもしれない。
桃『知っているか友よ。
カレーに含まれたスパイスには
体を元気にする力があるのだ!』
元気がない時は、この店のカレーが
一番。そう言って吉備津は大きな
口を開けた。
金『…なあ、ってぇ事はよ。
お前、元気ないんか…?』
カチャリ、とやたらに長い
天まで届きそうな匙を
皿に置いた。少しの、間。
桃『時に、友よ。貴殿は対面相性
という壁をどう思う?』
金『対面相性?』
桃『ファイターとは、一対一の
漢の闘い。ゆえに、己の力で立ち
向かわねばならない。…無論、
アタッカーに援護を頼む事も
できるが、中央に負担を掛ける…
俺は、どんな敵にも立ち向かえる
力をつけたい』
吉備津…こいつは責任感が強く、
1人で背負いこむ所が多々ある。
金『何があったかは知らねえけど
よう、得意、不得意ってのは誰に
でもあるもんだろ?
オレっちも端で不動鬼若を付けた
遮那には度肝を抜いた。
オレっちの旨味を全部持ってかれた
からな…だが、オレっち達は1人
じゃなく、チームで戦ってんだ。
対面不利は味方だって分かって
くれるさ、もうちっと、仲間を
信頼しようぜ』
桃『仲間、か』
吉備津は手を頭にまわすと、
頭甲を外し、それを両の手で包み
目を落とした。まるで、
そこに答えが書かれているように。
桃『俺にも心強い友がいる。
彼等がいなければ、鬼ヶ島の攻略
など不可能であったな…』
納得を得たように頷くと、コチラに
体を向け頭を下げた。
桃『かたじけなし…!』
金『よせよ…!本当に硬えヤツだな
桃の字は。なんでも自分の力で
片付けようとすると、いろいろな
モン失っちまうぜ?』
桃『うむ、確かに最近、片目を
失い、髪の色は落ち、乳首を露出
させる夢は見るが…あれが未来の
俺の姿かも知れん』
なにそれ怖っ。
どうやら、吉備津の懸念は晴れた
ようだ。その顔を見て、オレっちは
ようやく安堵した。
日ノ本一の男には、沈んだ顔は
似合わない。
店長『諸君…っ、あまり食が
進んでおらんではないか!』
ハッと後ろを見ると、カレー鍋を
手にしたままの店長が
手付かずのカレーを、娘を取られた
父親のような目で睨んでいた。
店長『スパイスが利きすぎたか?
ならばラッシー(ヨーグルトみたいなヤツ)はどうだ?ついでに余から諸君に
ポイントカードをくれてやる、
ありがたく受けとるが良い。因みに
雨の日はポイントが2倍だ!
毎日通うのだ諸君っ!』
その後、店長がいかに国(店)の経営に
尽力しているか、なぜ民(客)は来ないのかを延々と語られた。
その演説を、端の席に座った男は
1人、静かに耳を傾けていた…
………
……
…
フック『なかなか興味深い話をしていた
な、聞かせてもらったぞ』
始めの内はグァアアアッとか
やめろォオヲヲヲッとか
言っていたが、不思議と痛みはなく、
叫んでどうにかなるわけでもない
ので、オレっちは聞いてみた。
金『あの店にいたのか…?
狙いはなんなんだよっ!』
痛みはないが、体をいじられる
不快感がハンパない。
院長『なに、どんな敵にも
立ち向かえる力…それをお前に
くれてやろうと思ったまでだ』
モーター音が止み、船長は体を
オレっちとは反対に向けた。
院長『野郎共っ【例のヤツ】を持ってこい!』
ナース『承知しました♪』
バタンと音がし、ガチャガチャと
何かを運ぶ音が近づく。
妙にフリフリとした服のナースが、
ドレッサーから何かを取り出し、
踊るようなステップで院長に
ソレを差し出した。
小瓶…?
院長『スキルの雫…』
受け取った小瓶を、院長は愛しそうに
光りに透かし見た。
深い緑色が、川の底のような揺らめき
を称えていた。
院長『永遠の命を作る…その実験の
最中にできた副産物だ。
本来、持ち得ないスキルを与える
力をもつ』
ナース『これを怪童丸さんの体に
組み込めば、誰にも負けない無敵の
戦士の誕生ですね!』
あんな得体のしれないシロモノを
オレっちの体に…?
院長『さあ、仕上げの時間だ。
弱点の足の遅さを克服した
エアウォ型怪童丸の
出向だ!気合いを見せろ野郎共ッ!』
ナース『こんな歴史的瞬間に立ち会える
なんて…感激ですぅ!』
やめろ、止めるんだ。
同じ事はオレっちも考えたさ。
シリウスブリンク地鳴らしは
確かに成功したが、カードから
手を放した地鳴らしは地面を
マッサージ程度にしか揺らさず、
対面ミクサを
『え、何がしたかったん…?』
みたいな顔にさせる事しか
できなかった。
だから、無駄なんだ…!
オレっちは、最後の力を振り絞り
叫び声を上げた…
つづく
怪童丸自身に新たなスキルが宿るなら、それもチャージ可能に・・・?
まったく関係ないけど絨毯で戻ったら渦で店内滅茶苦茶になりそう
SR88の旦那≫
店長『引き寄せたぶんを支配者の威圧で
押し出せば元通りだな。余に不可能はないのだ!』