フック裁判長「オホン、静粛に。では、闇吉備津殺害事件の公判を始めます。」
ガヤガヤ……
吉備津検事「では、事件の概要を説明させていただく。
事件はプレイタイムの5:50、闇吉備津氏が血まみれで倒れているのが発見された。
通報から警察が駆けつけるまでの間に、通報人が写真に現場を写してあり、
これを見るに、近くに散乱する経験値用のクリスタルが散乱している事から、殺害後、間もない事が伺える。」
フック裁判長「ふむう、痛ましい事件だな。
第一発見者は?」
吉備津検事「発見者はスカーレット。闇吉備津の味方としてマッチング、森から援護に向かったところ、すでに殺害後であったと。」
フック裁判長「死因は?」
吉備津検事「被害者の体には鋭い爪で切り裂いたような無数の裂傷が残っている。
ワンダー界では、刃物や鈍器を得物にするキャストが多いことから、現在ヴィランとして暴れているジュゼが容疑者としてあげられる。」
フック裁判長「ふむう、確かに理にかなっているようだが…、断定には及ばないな。」
吉備津検事「であるので、ジュゼを重要参考人として召集をかけているが……、キャストに追加されておらず、足取りは依然不明のままだ。」
フック裁判長「では、本件は新たな証拠が集まるまで、これにて一時閉会……」
「待つのじゃ!」
フック「むう、なにやつ!」
火遠理「ワシの名は火遠理。見た目はこども、精神は大人、名探偵火遠理じゃ。
火遠理は『ほおり』と読むぞ。『ホ』は、シャーロック・ホームズの『ホ』じゃ。」
吉備津検事「残りの『オ』と『リ』は?」
火遠理「オーベルシュタインの『オ』と、リナ・インバースの『リ』じゃ」
吉備津検事「会話についていけん。
では、そなたが今、割って入った理由についてお聞かせ願おうか。」
火遠理「なあに、犯人が検討違いなのを正そうと思っての。」
吉備津検事「犯人はまだ確証はないが、重要参考人であるジュゼ氏が現在殺害方法からして有力であると見ているが?」
火遠理「そこじゃ、疑うべき部分が殺害方法であるなら、別人の可能性も考えられるんじゃないのかのう。」
吉備津検事「むう、しかし、大きな裂傷でキャストを殺害まで出来る者は他にはいないが…」
火遠理「真実は最初に提示された写真に写っておろう。もう一度それを見つめ直すのじゃ。」
吉備津検事「……わかった、では、第一発見者であるスカーレット女史に証言いただこう。」
★★★★★★★
フック裁判長「では、お願いする」
スカーレット「事件当日、闇吉備津は中央に行ったわ。
私は牽制を含めて小拠点側に、アシェが大拠点側に行ったわ。」
フック裁判長「ふむう、アタッカーがやたら多いな。」
吉備津検事「つまり、敵にもアタッカーがいると言う訳だ。」
スカーレット「しばらくロビンとやり合って、ロビンが森に逃げるタイミングで中央に向かったわ。
するとすでに闇吉備津が倒れていて、すぐにアシェ警察を呼んだわ。」
吉備津検事「つまり、犯人は対面の敵だったと考えられるな。」
フック裁判長「なぜ写真を撮影したのですか?」
スカーレット「自分視点の動画をアップするため、常にカメラを持っているの」
吉備津検事「なるほど」
火遠理「さて、では少し話を聞かせてもらおうかの。」
スカーレット「わかったわ。」
火遠理「この写真の経験値じゃが、なぜ残っているのかのう。」
スカーレット「ロビンみたいな遠距離攻撃でやられたから、敵キャストに回収されなかったんじゃないかしら?」
火遠理「さあてのう、裂傷を与えるなら、近接キャストだと思うんじゃがのう?
して、その経験値はどうなったんじゃ?」
スカーレット「アシェを呼びに行ってる間に無くなったわ。
時間経過で自然消滅するのは当然で、特に気にならなかったわ。」
火遠理「さてさて、どうかのう。」
吉備津検事「いい加減にしろ、火遠理!
おぬしの尋問は的はずれだ。
特に意味があるとも思えん。」
火遠理「検事、この経験値、敵が闇吉備津を撃破したのなら、置いたままにしておくかのう?
そもそも、闇吉備津がやられたのは敵かどうか、そして、この経験値のクリスタルは、本当にクリスタルなのか?
その答えは、傍聴席でうつ向いているあの子が答えてくれるじゃろうて?」
吉備津検事「なに?」
火遠理「では、来てもらえるか?
パーティー第4の味方キャストにして、この謎の全てを知る、深雪乃さん?」
深雪乃「!?」
★★★★★★★★
フック裁判長の「………ふむう、これは意外な展開になってきたな。
では、深雪乃くん、お願いする。」
深雪乃「どうして……私だって………わかったんですか?」
火遠理「それは、この写真じゃよ。
味方キャストがアタッカーばかりで、スカーレットとアシェが端に行くのなら、闇吉備津と一緒に行ったのは誰か?
サポーターなら、こんな急にやられはしないじゃろ。
それともうひとつ、このクリスタル……、いや、これは凶器…じゃな。」
深雪乃「なぜそれを…」
火遠理「一見、経験値に見えるこれは、実のところは氷柱(つらら)じゃろ?」
吉備津検事「ツララ……だと?」
火遠理「この多くの裂傷、尖った鋭い氷を嵐の様な吹雪の中でぶつければつけれるんじゃないかの?
たしか、あなたのスキルにそんなのがあったのう、飛雪払いじゃったか?」
深雪乃「ええ、その通りです。そこまでお見通しなんですね。」
吉備津検事「真実を、あなたの口から教えてもらえますか?」
深雪乃「…………わたし、許せなかったんです。
あの人、私と二人っきりで中央レーンに行こうって言ってたのに、
会う女性会う女性に、「クリスマスを、この我と共に」って……、
裏切られた……そう思いました。」
吉備津検事「いわゆる痴情の縺れか」
火遠理「確かにありふれた男女間のいざこざかもしれん。
でものう、深雪乃さん?
あなたは、本気だったんじゃのう。
その、本気の心が見えたから、ワシも事件の全貌が見えたのじゃ。」
深雪乃「え………」
火遠理「この、闇吉備津殿のご遺体、
一見、血塗れの遺体じゃが、
『血痕死体(結婚したい)』と現れとる……」
深雪乃「う、うぅ、うわぁー、わ、わたし……」
★★★★★★★★★
フック裁判長「真実は明らかになったようだな。
なんと痛ましい事件だったのか。
辛い人生も、一本棒を足せば幸せになる。
罪を償った後は良い船旅を期待するぞ。」
深雪乃「すみません、ありがとうございます……」
吉備津検事「ありきたりだな。」
火遠理「良いぞ良いぞ」
吉備津検事「火遠理、紆余曲折あれど、結果全てがお主のおかげで収まった。
礼を言う。」
火遠理「明日どうなるかなど、ワシにも解らんよ。
今の自分を、大切にするのじゃよ。」
吉備津検事(これから難事件は火遠理にほうり投げるか。なんて。)
~つづけ~