「貴方は全てを捨ててしまわれた…大切なものは無いのですか?」
おかしな事を聞くものだ、と敵兵を片手間に斬り伏せながら思う。問いへの答えは既に、紡いだ当人から出ているではないか。
「無いな」
全てを捨てているのであれば、持ち得る物など何一つとしてありはしない。そんな当たり前の事を、何故この女は問いかけてくるのか。
美しい女だった。歳の頃は読めず、艶やかな黒髪を彩る顔立ちは童女のようでありながら、その双眸には底知れぬ強い光を携えている。その身を揺らぎながら輝き続けるそれは、まるで水面に浮かぶ満月のようであった。儚く、崩れそうでありながらも、決して壊れることのない。女は魔性めいた美貌の持ち主であった。
(ぬるい…ぬるいわ!)
だが絶世の美女とも呼べる存在を目の当たりしても、男の表情は険しく、鬼気迫るものがあった。
例え水面の月であれ、斬れば壊せずとも形は崩れるだろう。それが幻影の月ではなく血肉を持った魔性であれば、斬り続ければ必ず絶命へと至る。物の怪を幾度となく討ち果たしてきたこの身ではあるが、不思議と目の前の娘を斬ろうとは思わなかった。その事に口角を上げながら、自嘲する。月は冥府と現世の境目ともいう。邪な気にでもあてられたか。
女は日ノ本一の美しさを誇る姫なのだと、民草から聞いた事がある。鈴の音のような声、玉虫色に光る装束。成る程、これがまっとうな男であれば、先ほどの問いへの答えにも、いくつか色恋じみたものを期待して返すことができよう。
――だが、
「我が身、既に鬼なり…」
花は裂いた、鳥も落とした。風を突き刺し、今まさに月をも砕かんとするこの身が、鬼以外のなんと呼ぶことか出来るであろうか。
「我が心、既に空なり!」
そして鬼と人とが、どうして恋など出来ようか。人としての生を捨て、心を捨て、剣の命ずる魂のままに化生を斬ること。それこそが血に堕ちた吉備津の侍としての、残された存在意義だった。
「世俗に対する欲などとうの昔に…」
かつて自身に付き従っていた部下は、もう居ない。家柄も武功も、果ては家族同然の同胞も。まるで初めからそうであったかのように、全てを置き去りにしてきた。今持つべきものは、悪しき鬼を殲滅するこの肉体と剣のみ。
先ほど打ち倒した敵から剣を抜きさり、その胸元を漁る。死者を弄ぶ趣味などはなく、雑兵を弔う義理もないが、どうしても優先すべきことがあった。
「あの…何をなさっているのですか?」
女が形のよい眉を顰めて聞いてくる。今しがた手にかけた相手の荷を奪う、町娘であれば気を失ないかねない凄惨な風景であるが、姫ともなると肝が太いらしい。本当に魔物ならばなおさらであろう。
「だが経験値は別だ」
「……は?」
「経験値は、別だ」
敵の懐から水晶のような、硝子細工にも見える塊を取り出す。そう、これこそが唯一つ己の欲するものである。
「敵を倒すと出現する経験値は極力拾え!チーム全体のレベルが上がり能力が強化される!」
滾る身体をついには抑えきれず、大喝と共に五体を大地へと投げ打ち、四肢を存分に広げながら経験値をかき集めた。今しがた倒した敵の持つ経験値は存外に多く、その量の多さに知れず舌なめずりをする。
放置して捨てるな!!どんどん拾え!!クリスマスを…!!
女には自分の声が届いていないようであった。白痴のような表情を張り付けていても女は美しかったが、童女と呼ぶにはいささか年の功を感じさせる風貌となってしまった。
「ああ――月が満ちていきます」
自らを鬼と称する男が見せた、余りにも人間臭いその様相に女――かぐやは、周囲から妖の美と影ながら言われ過ごした、自身の空虚な年月を重ね、一つ笑みを浮かべた。
(あとがき)
以上、素敵な原作は鈴木玖さまのわんだーらんど4コマうぉーず第12話を見ましょう。大聖使いとしては第11話も書きたい。
筆者、最近思うのは
・まず自身の雪曇大聖と組んでしまった人。本当にごめんなさい。雪曇ノーチャンでした。過ちを認めます…。最近敵がドロー型かスキル型かでビルド変えてます。
・大聖はビルドより「立回り」が全てなのに大聖動画が少なすぎィ!!ニコ動で神大聖使い達の湯気吹いてからの理不尽なワンパンで撤退させられて負け試合晒されるなんて悲しくて見れないよ…。僕もこれ以上相手への経験値になりたくないので大聖使い全員に経験値を撒いてくれる動画プリーズ!(これが主題です)
・腕もスキルもない自分は、やり続けるしか上手くなれないんだね。
・やっぱり手前を拠点を「序盤早々に折られる」は結構デメリットがある気がする…レベル5の壊れスキルの押し付け合いの不利だったり、意外と大きいのが「拠点が減ると索敵範囲が減る(ミニマップ)」。あと森への侵入され具合がやっぱり違う。
・神通欲しいときは欲しいし、如意棒欲しいとは欲しい。流転ゲージ化マダァー?
それではまた、わんだーらーん。