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祭りの夜のアリス【小説+1枚絵】

by
グレイ
グレイ
「わー! 人がいっぱいだね!」
 色とりどりの屋台、華やかな浴衣姿の人々、どこからか聞こえる笛や太鼓の音。そんな和の雰囲気に囲まれながら、同じように浴衣を着たリトル・アリスがはしゃいだように言った。彼女は普段おとぎの国で戦いを繰り広げているが、しばらく休みを取るということでお祭りに連れてきていた。
 彼女の言う通り、満員電車もかくやという勢いで人がごった返している。このあとにある大きな花火大会が目的だろう。
「ねーねー。あの白いのは何?」
 アリスが指を差した先では、子供が綿あめを食べていた。イギリス育ちの彼女には見慣れないものなのかもしれない。
 アリスに綿あめについて説明すると、キラキラと期待した眼差しでこちらを見上げている。それに応えるのもやぶさかではないが、ただ単に買うだけではつまらないだろう。
 辺りを見渡すと射的屋があった。それで勝負することを提案する。アリスが勝てば綿あめを買ってあげるという話だ。
「マスターいいの? 私が勝っちゃうよ!」
 アリスが露骨ににやにやしながら、自信満々に言った。子供の背伸びが微笑ましい。その自信を煽りながら、そのまま2人で射的屋に向かう。
 アリスがやりたそうにしていたので、彼女を先行にした。料金表を見ると500円7発と書いてある。7本勝負だ。
 アリスは周りの人がやっている様子を見ながら、コルク銃を見よう見まねで構えた。
「ふっふーん。いつも魔法で狙ってるんだから、こんなの楽勝だよ!」
 アリスが狙いを絞り、引き金を引いた。コルクの弾が打撃音とともに発射され、景品の横を通り抜ける。
「あれ?」
 アリスは首を傾げた。まぁ安物のコルク銃だし、まっすぐ飛ぶとは限らない。アリスはそのあと1発はずしたものの、そこでコツを掴んだのか続けて5発当てた。
「私は5つだね。次はマスターの番だよ!」
 アリスが差し出して来たコルク銃を受け取る。4つ当てれば良いだろう。
 まずは適当に2つ外す。そして思いっきり腕を伸ばして、景品の鼻先に銃口を突きつけた。
「あー! ズルい!」
 言いつのるアリスを適当にあしらい、1つ、2つ、3つ、4つと当てていく。残り1発だ。
「マスター、引き分けになったらどうなるの?」
 もちろん買わないと伝えると、アリスは声をあげて驚く。茶番だから大丈夫、とは心の内に秘めておいた。
 祈るアリスを尻目に、コルク銃を構える。そこで不安定な体勢になるようにし、片足を滑らせたフリをした。
「あっ」
 そのまま引き金を引いて――もちろん景品に当たらない向きを念頭に置きつつ――弾が景品に当たることなく、壁にぶつかった。
「え? やったー!」
 アリスが両手をあげて喜ぶ。適当に悔しがっておこう。
 約束通り、綿あめを買いに行く。はぐれないように手を繋ぎながら、しばらく歩いているとすぐに見つかった。
「レインボー綿あめ? すごーい!」
 屋台を見ると、普通の綿あめの他にカラフルな綿あめのサンプルが置いてあった。通常600円のところを色をつけて1500円になっており、かなり強気な値段だ。
「マスター、こっちがいい!」
 アリスがキラキラした目で見上げている。……まあここで買わなかったら嘘だろう。
 注文すると店主が機械に材料を入れた。棒を中でくるくると回すと、みるみふうちに綿あめができてきた。アリスは「おー!」と歓声をあげながら見守っている。
「ありがとー!」
 店主が出来上がったものをアリス渡すと、満面の笑みで受け取った。思わず見惚れるほど可愛い。スマホを構えると、アリスはポーズを取ってくれた。たまに日本で過ごすからか、だんだんここの文化にも慣れてきている。
「マスター。はい、あーん」
 アリスが綿あめをひとつ千切って、差し出してくれる。「おいしい?」という言葉に頷くと、再び笑顔になった。
 そのあとはない太鼓や横笛の演奏を間近で見たり、焼きとうもろこしやりんご飴を食べたり、落書きせんべえで似顔絵を描いたり、輪投げやヨーヨー釣りなどした。アリスはどれもやったことがないらしく、はしゃぎながら祭りを堪能している。
「わっ」
 突然の爆発音にアリスが驚いていた。花火が始まったのだ。アリスに説明し、2人で空を見上げる。
「全然見えない……」
 凄まじい人混みの中、背が低いアリスが顔を曇らせた。周りを見渡すと肩車をしている親子がいるが、それは流石に厳しい。見える場所を探そうと提案すると、アリスは頷いて駆け出した。
 すいませんと声をかけながら進むと、見上げてる人も道を譲ってくれる。ただそれでも開かれた道は狭く、アリスとの距離は離れるばかりだった。頭の色がド派手なので、見失わないのは幸いだ。
 屋台を通りすぎ、森を分け入り、しばらく道なき道を進んでいると、ようやく開けた場所にたどり着いた。外れにあって駐車場も遠いからか、人通りも少ない。ここならアリスでも花火が見えるとは思うが、彼女は目的地をすでに決めてるようだ。時折振り返りながらも走ってる。
「マスター早く~」



 彼女は長い石段の上にいた。長く走った末の追撃にちょっと怖気づくが、笑顔の手招きを燃料にもう少し頑張る。
 四苦八苦した末になんとか登りきると、ぽっかりとした広場が広がっていた。昔になにかあったのかもしれない。
「マスター見て!」
 アリスが示した空を見ると、色とりどりの火花が舞っていた。
「どう? とってもよく見えるでしょ!」
 アリスは誇らしげに胸を張っている。眼下にはぽつぽつと淡い光を放ってる屋台やちょうちん。周りには色とりどりの光にうっすらと照らし出された山々。そして空には暗い夜空を背に輝きながら大輪を咲かせる花火達。それらがこの場所からはよく見えた。こういう景色を絶景というのだろう。
 返答代わりにアリスの頭を撫でると「子供じゃないよ!」と怒られた。
更新日時:2023/08/19 02:36
(作成日時:2023/08/19 02:34)
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