(──防御低下の……「強化双気唱」か)
範囲内の味方には有利な効果を、敵には不利な効果を付与する船の巨人。
舞台に戻ってきたとき、相方のジョーカーはそれを倒すべく戦っていた。
しかし、この強化双気唱がもたらす防御力ダウンは被ダメージを20~30%増加させる程の協力なデバフで──元々体力の少ないピーターにとってはその存在だけでも脅威になることも少なくない。
それでもピーターワンダーを利用してかぐやの爆撃を軽快に避けながら、ストレートショットで巨人を削っていく。
(少しでも早く処理できるに越したことはないよな。俺もドローショットで──)
しかし、立ち止まって銃を撃つジョーカーに巨人の影に隠れていたかぐやのストレートショットが肉薄するのが見えた。発砲後の硬直に被り、ジョーカーがよろめく。
「──あぶねえ!」
其処にもう一撃追撃が迫っている。咄嗟にピーターはその射線上に飛び出した。
戻ってきたばかりのピーターの体力はマックスだ。かぐやのストレートショットくらいなら──
そうやって肉壁を選んだピーターの前に現れたのは、哀れな生贄を喰らわんとエアウォークで跳んできたナイトメアだった。
「おらっ、喰らえッ」
「──ッ!」
引き受けた月輪の上に、ナイトメアの三連射が重ねられる。
悲鳴を噛み殺しながら地面に転がる。体力があっという間に三割を下回る。
これをジョーカーが食らっていたら間違いなくやられていただろう。防御低下を食らっていないピーターの万全からこれなのだから。
(──ダメかな、でもジョーカーが生き延びれば)
この状況においてはジョーカーの方ができることが多い。幸い全てをピーターが引き受けた結果、ジョーカーは無事だ。しかし、ジョーカーはピーターを置いてはいかなかった。
「これで決めるッ」
足を止めた距離は僅かにナイトメアの銃の射程外。振り返って銃を構える。
届かないと気付かず銃を振りかぶったナイトメアに狼煙の一撃が突き立てられた。
「申し訳ねえ!」
「援護する!」
闇に踊り乱舞を見舞いながら、相棒/ピーターにジョーカーが囁く。
"生き残ることを考えろ"
エアウォークがある。ピーターは何時だって逃げ延びることは出来た。それでも──
「──この夢を、風に乗せて」
起き上がってすぐ選んだ選択肢はドリームウィンド。
其処にいなくても其処にいる、ジョーカーへのバフとして渡さなくてはと考えたのだ。
かぐやのストレートショットが突き刺さってもはやピーターも瀕死だ。
(かぐやの爆撃がホールドアップの硬直に飛ばないか心配だけど)
痛む傷を抑えながら、風を喚ぶ。後はもうできることはない。
ピーターに出来るのは生き残ることだけだ、それでも──
「──助かったよ」
エアウォークで跳び退る間際、硬直の合間にそっとジョーカーが撫でてくれた──そんな気がした。