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いつか越えるべき壁

by
烏兎@Volksages
烏兎@Volksages

──煽りプレイヤーがBANされるのは良い事だ。
しかし、BANされただけでこの図書館から立ち去ってくれるタイプのプレイヤーは少なく……
その多くは、"転生"する。

新しい名前、新しい筆、そしてあたらしいキャストランク──
彼等が元居た地位に辿り着くまで、本来のキャストランクより下のプレイヤーは腕の差を押し付けられることになる。
本来の筆とは違う筆をもつこと──"サブカード"の存在が「正常なゲーム運営の妨げになってしまう」のも同様な理由だ。
故に──


故に、少年にとってそのエピーヌのプレイヤーは"壁"であった。
何時か越えなくてはならない壁。明らかに自分達より上の力を振りかざす、脅威……




「──」

よりによって、拡大と呼ばれる戦場で出会うとは。不安と緊張に息を呑む。
暫く見掛けていなかったその名前──前見た時と"名義"は違うが、その中身が同じらしい事は聞いている。
味方は、前の試合で一緒に組み一緒に負けてしまったシャーウッドアイのないロビン。
御本人が兵士を気にしがちな気質であることもわかっていて、其れが余計に緊張を沸き立たせた。

悠久はジョーカーが担当するのだろうか、しかしながら対面はエルルカンであることが想像に易く。
いつもお世話になっている先輩が操るマグスの対面は、現環境トップの一端であるドルミールだ。


「よろしくお願いしますね」
「よろしく頼む」
「それじゃ、よろしく頼むよ」

「──うん、よろしく頼むぜ」

謝罪が口から出そうな程怯えていた。実際出たかもしれない、記憶があやふやな程に不安に満たされていた。
そんな少年の背を、マグスは笑って叩く。

「唯の道化出ない処をお見せしよう」
「──!」

なんの気負いもなくからりと言ってのけた道化師に、ふわりと不安が溶け消えていくような気がして。
つられて無表情を崩したピーターを見て、遠巻きに見守るロビンもまた微笑んだ。

「ふふ、とても優雅ですね」



















すっかり不安は風と共に吹き消えて。後はこの彼と今度こそうまく勝つにはどうしたらいいか。
少年の思考は思索に溢れていた。シャーウッドアイを持たない彼に、余りMPを使わせたくは無いから兵士処理も大事だが──

(兵士処理が出来ない様に詰めていこう)

最序盤のロビンはダウン手段を持たない。その最序盤の時間をSSによる牽制を兼ねた兵処理に費やす様子を見ながらピーターは横合いから詰める事を選んだ。あわよくばエピーヌを捉えたいけれど、エピーヌはロビンの側、それも拠点側の奥の方まで行ってしまった。


「うぉっと!」

入れ替わりに此方に近寄ってきたウィキッドの攻撃が掠る。
全弾被弾とまでは至らず、ダウンせずに済んだ。一度下がるも、ウィキッドはそのまま兵士処理をしながら此方を警戒してくるようだった。


──ロビンはどういう詰め方をするのかな。

ちらり、と視線をやる。ストレートショットを打つ時の発声が淀みなく戦場に響いているが、その視線はじっとエピーヌの硬直を待ち構えるように睨んでいた。

少年は踵を返して再び横合いから前に出る。

(わかった。出来るか分からないけど、やってみるよ)

兵士に弾を向けるウィキッドを見据えて、腰の銃を抜く。相手がダウンしたら風で兵士を蹴散らして、もう一歩、前へ──


「──今日こそ越えてみせるからよ!!」





拠点前まで迫った瞬間、迷うことなく放ったロビンのダブルショットがウィキッドを竦ませ、ほぼ万全の状態で手前拠点を奪取できた。相方が刹那に出掛けている間に一度帰城し、足並みを揃え──

(る、にはちょっと欲張って遅くなっちゃった。行かなきゃ)

エピーヌがミニマップに映らないくらいには中央/其処にいないからいいが、中央に相方アタッカーだけという状態は本来は状況としてもリソースとしても美味しくない。
自分ひとりがレーンに残る状況はレーナーだからおかしくはないけれど、逆は相方の体力だったりMPだったり──余程の事が無ければリソースを削るだけ。


「ただいま、待たせた!後夢風!!!」
「ああ、ピーター。エピーヌを見ませんでしたか?」


敵森から出てきたロビンがきょろきょろと見渡しながら尋ねて来るが、首を横に振る。
そうですか、と端のエルルカンに狙いを定めたロビンと別れてレーンに戻ろうとした──



微かな風の音が耳に響く。付き纏う白いカードが消えるのを見た。

「──!」

直ぐ近くの入り口から森へ飛び込む。SSを防ぐ障壁が必要だ。
ライオンがかかっているなら兵士は盾にならない。壁だけが自身を護る盾になる。

果たしてウィキッドは一瞬遅れて森の外に現れた。
限られた入り口である門を通る様に風を吹かせるも、入って来ることなく強化弾に吹き飛ばされる。

「やっべ──ッ!!!」
「……ピーター!?」

その間にロビンの弓はエルルカンを射貫き、ジョーカーが仕留めてくれていたらしい。
ピーターのダウンの隙に森に立ち入り、そのまま喰らおうとする彼女に警鐘のダブルショットが飛ぶ。


「~~~~~ってえ……センキュ……!」


回避時間の間に立ち上がった少年は抜き撃った銃で追い払い、更に。

「此処はもう通さねえからな!」

其処にゲートを置かれたとなれば、ウィキッドがこの森に立ち入ってピーターを取り押さえる為に、別の入り口を目指す他ない。


「──申し訳ありませんが、その判断は読めておりますので」

そして迷うことなくロビンはその"別の入り口"へ駆けた。
輝いた弓が、ウィキッドを突き飛ばす。その間に少年は兵士処理の務めを果たす。


(後は貫通SSを兵士に撃たれなければ──!)


兵士列から敢えて離れて少年はウィキッドを追う。


「あっ」
「やっべ」


判断は間違っていなかった、と思う。
確かにその一射をピーターに使わせなければウィキッドはその一列を防ぎ、特大を護る事も出来ただろう。


「──きゅぅ」
「自分で注意チャット出しておいて……ピーター」


苦笑いするロビンの声を聴きながら、光と文字に分解されていく自分自身をぼんやり見ながら──
その向こうで、敵の特大拠点が陥落した。













「こりゃどうも、有難い!」
「恩に着ますよ」
「助かったよ」


世話になっている先輩に褒められ、前の試合で一緒に勝てなかったロビンと一緒に勝てて。
その上でずっと壁として立ちはだかっていたアイツに勝てた。お前がMVPだと撫でられて、少年は大層嬉しそうに綻ばせて笑った。

「へへへっ、たまんねえなあ!」




Special Thanks
         ルル/ロビン・シャーウッド
       コンマイ/マグス・クラウン
      光クラリス/ジョーカー
作成日時:2023/03/18 15:23
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