遊戯祭のシレネッタは正直欠けといえる弱点が殆どない。
序盤のドローによる戦いも、今日豊富な早熟ドローアシストによって補われ
津波の魔力/MP的重さは強化ブースターのスキル&ドロー消費MP減少の効果によって軽減されるし、
運命の水晶の効果は強力なものが多く、退きながら兵士処理も出来るシレネッタの、ルールとのシナジーが活きるのだ。
更には運命の水晶の効果に『兵士強化』がある為、スキルで兵士処理するサポーターの中にはこれに苦戦する者もいる。
シレネッタ自身はこれの上から津波で倒しきることが出来るらしいのと相俟って。
ロールミラーが成立する遊戯祭。
対面シレネッタを引いたら、その不利を引っ繰り返すのは相方次第──なんてことももはや否定できない。
遊戯祭でサポーターが薦められない理由、正直そのあたりだ。
とはいえ、ロールミラーはあるがトータルランクミラーがない。
ファイターに乗ると当然ファイターが出てくる事になる。
少年が戦うBISHOP~ROOK帯には、恐らくKNIGHT以下がマッチングしないようになっており──
「いやこれ、ファイターで出たら蹂躙されちまう……」
初日という、未だ多くの人間が注目度を稼げているわけではない戦場。
TR13000以上の、EX3以上を持つプレイヤーの初期注目度が1350であり、金剛筆以上のプレイヤーは1勝で少年と同じマッチングに辿り着く一方で、少年と同等か或いは少年より格下のプレイヤーが少年と同じマッチングに辿り着くには200から400、注目度を稼がないと辿り着かない現実。
少年以外全員が金剛筆以上。それが当たり前の戦場になっていた。
"出来るキャストに乗るしかない"は、協奏や舞踏会でよく聞く言葉だ。
シレネッタ以外のサポーターは辛すぎる、少年自らそう口にしながらも──ピーター以外"勝つ見込みのない"戦場が其処に在った。
「ワシ クメテ ウレシイ!!!」
「ん……久しぶり、だね。頑張っていこう……」
(──気まずい)
そんな状況で知己を引きたくなかった。なんていうのは、我儘だろうか。
引きつった真顔で頷き、戦場を見据える。巨大な蔦が渡す空中庭園のような舞台は大空の上のよう。
「がんばっていこう……」
「りょーかーい」
事情を知らないエルルカンが、声の出ない少年に苦笑いして微笑むさまを見ながら気を抜けたように返事をするのだけが少年にとって救いだった。
相対するは金剛筆のアシェンプテル、それから瑠璃筆のメイディ。
(分かっていたことだけど、また自分だけが紅玉だ──)
気を引き締める為に白服でも纏って来れば良かっただろうか。いや、其処まで自分を追い詰めるのも怖い。
ブースターもあって、ドローを数描いても余裕が残るのは有難い処。初手の水晶は"防御力"。
横から差し入れるようにドローを描く、最序盤。流石に瑠璃筆の対面は緊急回避で取ろうとした距離を的確にストレートショットで咎めて来る。それでも、スキル型の序盤とドロー型の序盤のやり取りだ。
「悪いけど、そいつは盾に出来ねえぜ!」
大兵士を二射で打ち抜き、三射目がメイディを打ち抜く。月影の矢が解禁されるまでは少しずつ、少しずつ此方が有利を重ねられる戦場だ。ダウン間際に放たれた風をゆっくり大回りして避けて、更に横から追い詰めていく。
相手のレベル3よりはやく、此方がレベル3を迎える。
「この焔は──」
此方の風を恐れて、跳び退るメイディ。丸で其れを見越していたかのよう──
「──私を研ぎ澄ます」
灰燼に帰す、とまでは至らなかった。それでもあの瀕死では継戦不可能だ。
その隙をアシェンプテルも見逃さなかったが、戦線を無視してアシェンプテルがミクサに詰めていくという事は、つまり。
(この兵士達はほぼほぼ入れられる──!)
今を逃しては何時になるか。9人列2組分は大きい。
遊戯祭の普段より耐久の大きな中央手前拠点はそれでも崩れはしなかったが、残りは2メモリ程だ。
「──降ってくる、気を付けてよ」
「えッ、い"ッでぇ!?」
成果を認識してほっと気を抜いた瞬間と、エルルカンからの静かな警告はほぼ同時で。
堕ちてきた星屑に強かに吹き飛ばされたのと、ミクサが逃げきれずアシェンプテルに仕留められた報告がほぼ同時。
メイディは──戻ってきている。
(──挟まれる)
痛む頭を抑えながらよろよろと立ち上がる。メイディは挟み込みには来ないようだが、速度を積み立てるアシェンプテルのスキルの祝詞が微かに聞こえる。迷う時間は、その猶予はない。緩やかに地から離れて息をつく暇もなく、構える。
「──空の彼方へッ」
手前拠点目前まで攻め上がり、対面の存在しない温羅のレーンに飛び込む。
アシェンプテルがその背を追ってきても、上がってきている温羅のレーンの兵士達が護ってくれた。
もう一度空を翔ける。アシェンプテルはそのまま温羅のレーンに干渉する事を選んだらしい事に気が付き、注意チャットの遅れにも気が付く。
(やっちった──)
「申し訳ねえ!アシェそっち行ってる!」
中央あるあるの悪いやらかし方だ。自らの命こそ護れても、それで隣レーンを不利にしては──
帰城の魔法を唱えながら、慌てて警告を出す。でも、その警告は必要なかったかもしれない。
『おおッ──これは!』
未だ半ばあった筈のアシェンプテルの体力が、ほぼ瀕死まで削られる様が映る。
『満天の星の輝きだあ!!!』
──帰り際に回収した水晶は、戦場に創聖の箒星となって降り注いでいた。
ミクサが的確にフレイムショットを撃って大兵士を撃ってくれたお陰で、下がったレーンも軽快に取り戻していく。
もうちょっと戦場が見れていれば、ゼーレを用いてエルルカンのレーンのカバーも出来ただろうか。
心惜しさこそあれど、ゼーレの兵士処理能力を押し付けるようにして中央手前を奪取した。
ちらり、とみる。
復帰したエルルカンがWSを用いて対面のミクサを帰城させたのが見えた。
痛み分けであったらしく、横槍に行ったアシェンプテルにエルルカンが仕留められてしまっているけれど──
戦場は温羅のレーンが若干敵側の奥拠点が削れているほかを除いては、
此方の中央手前と向こうの悠久の手前それぞれが折れていない事で結果的拮抗となっている構図だ。
この戦場、泉が遠い……
(悠久レーナー[R:ミクサ]がいない、今なら──)
「永久の夜への招待状──」
「──私とあなたのものだから」
目配せ以外の何もきっと、要らなかった。
相棒のミクサが悠久に駆ける。手前拠点まで歩みを進めると改めて宣言しながら。
自身の務めはメイディとアシェンプテルを振り回すことだ。
牽制をちらつかせて月影の矢を躊躇わせ、その速度を活かしてアッシュミストを振り切り風で突き飛ばす。
その間に悠久レーンにスプライトアートを置いてきたミクサがアシェンプテルに詰め寄る。
ホーリーインフェルノに焼かれそうになったアシェンプテルがワンダースキルを行使する声が戦場に響く。
悠久レーンは無人になったが、スプライトアートによって敵の兵士の防御力が下がり、じわじわとレーンが上がっている。
ミクサと入れ替わるようにピーターは其処で待ち構えた。敵にとって悠久手前は要だ。
此処を奪われるなら、これからゼーレも復活するピーター相手にほぼ無傷の状態から中央手前を奪わなくてはならなくなる。
だからこそ、待ち構えた。必ずアシェンプテルは此処に来る。
無敵時間でミクサを振り切って──
振り切って、彼女は現れた。彼女は後がない、早くピーターを咎めなければ駆け入る兵士を止める時間がない。
だから、近くを彷徨えば必ず彼女はその剣を揮う。
「──本気になるなよ?大人げないぜ!」
果たしてその通りとなった彼女に、風をぶつけながら飛び退った。
恐るべきはロストボーイパレードのその火力なのかもしれない──
「あっ、ミクサに倒して貰った方がゲージ的には美味しかったか?あはは、いつもごめん」
「あこがれちゃう……」
戦場が大きく動くと巨人が出る。
刹那や悠久だったらよかったのだけれど、敵の巨人が中央に出てしまった。
ミクサは決して巨人処理が出来ないわけではないけれど、少年はワンダースキルも吐いてしまい、ゼーレも未だ復活しない。
「あー……」
作った優位が覆る唯一の路は、この中央手前を奪われてしまう事だ。
刹那は温羅同士で裏取りしあっており、復帰した敵のミクサが味方の温羅を咎めている為、敵の温羅も放置は出来ない。
相棒には其方に行ってもらう他ないだろう。船型の巨人を忌々し気に睨みつける。
睨みつけた視界に、ふわりと光の天幕が被った。
少し後ろに、光の球を従えて二色の死神が佇んでいた。
「礼は言っておくよ──ほら、此処は任せなよ。才能が違うってこと、教えてやるから」
したり顔、或いは自慢げに小悪魔は笑った。反響する音色があっという間に船を沈めていく。
少年達の負け筋という名の不安要素を、なんのことも無さげに刈り取ってしまった。
「わあ……たまんねえなあ……!センキュー!!!」
「ハハッ、簡単だね。ま、礼は言っておくよ」
後はもう、ゼーレも戻って来る。死ななきゃ勝てる。刹那は最後まで波乱続きになるだろうが、全て壊れてしまう分にはイーブンだ。
中央手前が奪われなければ、勝ちに俺達は持ち込める──
「は──……やっひゃー!!!みんな有難う……!!!ほんと、たまんねえなあ!」
「ゼンブマルカジリ!!!」
「すごく、いいね……」
「やるじゃん。思惑通りってやつ?」
勝った後ならどれだけはしゃいでも平気だ。始めは硬くなって応えられなかった知り合い達に、悪童は喜び勇んで飛び込んでいくのだった。
* * *
本当に最初お久しぶり!!!より申し訳ねえ!!!が勝っていたし
勝ってようやっとはしゃげた感がある。実際の処本気で悠久手前取る代わりに巨人処理して貰えたの
状況的にミクサにはどう足掻いても巨人処理を頼めそうになかったので神の采配だった。神だった。
最後ミクサちゃんがWS返ってきちゃって適当にWSした結果なんかすごい勢いでLINKで出迎えられて
やられちゃうんだけどそれすら微笑ましく笑って事故にできてしまうレベルであの時点で大分勝負決まってた
ピタミクWS中の息の合いっぷりが本当に好きで好きで仕方ない試合でした
Special Thanks 温羅/しらすごはん
ミクサ/無線技師
エルルカン/むかえ