──恐れないで。耳を澄まして。目を凝らして。
オーバー・コール。
言葉の通り、瞬間移動によって対象を地の果てまで追い詰めることが出来るウィキッド・ドロシィの移動スキル。
一度歩き避けたそれを、もう一度撃たれる事迄は想定していなかった。
ロックオンを受けた事を表わす紫アイコンを確認し、少年は相方の深雪乃に夢風を撒く。
「未だ押されてねえ今のうちに一旦帰る!申し訳ねえ!」
「了解!任せて!」
体力は未だ半ば程迄あったが、攻撃の性質を考えると不安だ。
ライオズ・アンティのダブルトリガーは兵士を貫通するから盾に出来るものが少なく、その弾の大きさも明らかに増して歩き避けも難しい。盤上からいない時間を極力減らす為エアウォークで駆ける。
慌てて戻ってくると、自拠点が画面に収まる程には押されていた。
逆に言えば、深雪乃のカバーが丁寧であったお陰でその程度で済んでいる。
しかし、レベル3も後半となると対面のかぐやの月影の矢による兵処理速度がしんどい。
爆風を受けることによって生じるMP回復速度低下も痛手には違いなく──
(森から兵処理出来ないかな)
ふらりと自森に入ろうとした時、声を聞いた。
"ひとつ、運試しをしようか"
ロックオンのデバフ表記が消える。
はっとして少年は踵を返した。森の中に跳ばれては座標がミニマップに映らない。
一撃で死ぬ体力ではなかったが、此処でダウンを獲られては拠点に兵士を入れられてしまうのも確かだった。
「ッ」
聞き違いではなかった。見間違えではなかった。
眼前にぶわっと自分ではない他者の金が現れる。冴えた月光のような金から跳び退るように中央レーンに飛び込む。
森に飛び込むと読んだウィキッドの銃弾がすれ違ったピーターの背中を掠める。更にそのウィキッドの背中を駆け付けた深雪乃の氷刃が突き飛ばしていった。
「勝負が付くまで泣くんじゃ──」
一瞬の攻防だった。緊張と不安、敵に隙を晒してもつれ込むように飛び込んだ地面は柔らかな草に覆われ然程痛くはなかったが──ほんの少し涙目になっていたのかもしれない。決め台詞をドヤった深雪乃がすっ転んだピーターを見て狼狽えた。
「あ、いや、大丈夫よ、ね?ほら、バッチリ倒せたし?」
「お、おう、感謝するぜ……」
オーバー・コールのロックオンは、瞬間移動の直前に消える。
意識していなかったら咄嗟の反応は出来なかった、とはいえ──本当に一瞬の攻防に、少年は深く深く安堵の息を吐いた。
* * *
実際には余りにもびっくりしてSSで手を出してしまったのですが、
絵面としては美味しくないと思ったのでショートストーリー化に当たって改変しました。
デバフ表記意識しながら体力にマージン取って動くだけでも未だ抗いようが増えるので
駆け引きもあって個人的に敵でも味方でも好きなスキルです。
ウィキッドさんスケア・カードは敵拠点手前に投げないでください 投げるなら敵拠点横か敵拠点後ろです
(兵士処理目的ではなく足止め目的にしてほしく、その場合拠点より前に敵兵士が出るか出ないかは大きな差がある)
後爆発させないでください兵士倒せないんで……(ダウン中兵士が受けるダメージは著しく下がり兵処理が困難になる)