あるミクサが言いました。
フレイムショットが当てられて、サポーターの兵士処理が信頼できるなら──
フレイムショットヒートチャージヒートインパルスも大いにありだって。
どうしても悪童は、それがかなり難しい事をいってるかのように思っているけれど──ひとり、近くにそれをやってのけるミクサを知っている。
「……あ、ピーター。ふふ、会えたね……」
「げえっ、クイーンミクサ!?」
「げえ、って、ちょっとぉ──」
時は少し過去の話。世界は紫紺の舞台、舞踏会。
ピーターの知るお友達の中に、その舞台でルビーでありながらQUEEN称号を持つ強者がひとり居ることを知っている。金筆時代から顔を知っているから、自分より後輩である筈なのだが──やはり、センスのあるアタッカーはその歩みが止まらない。
「私は知ってるお友達と組めて嬉しいよ……?」
「……うぅ」
ラムネのわたがしみたいな髪の奥から、ピンクグレープフルーツの果実のようなあの独特な赤が見上げて微笑む。俺は彼女のことを信頼していると同時に苦手としていた。
だってこいつ以前ウィンドゲート置こうとした後隙にフレイムショット置いてこっちを蒸し焼きにしてきたんだもん。そんなジョークはさておいて、純粋に──このパートナーと組んで負けたら自分が絶対に悪いと思う程に信じてしまっているパートナーのひとり、それが彼女だからだ。
信じている。その強さを、その腕を。そして。
(ラインフレア、積んでない──)
信じられて、いる。そう感じる、感動と恐怖が何時も共に在った。
対面はマリクシレネッタ。波こそあれ、魔神化されるとピーターですら命取りになりかねないマリクと──最近はドローもその火勢を上げ回復によるヘルスと併せてガンガン攻めて来るのが末恐ろしいシレネッタ。瀕死中に敢えて魔神化させてチャンスを削ぐとか、中央を援けを必要とする状況にして動きを封じるとか、そういう対策も相方がシレネッタでは難しく──一番とまではいかないがマリクを支える強力な相方の案のひとつだ。
魔神化の最速がレベル3になりがちなこと、パッションストリ~ムの解禁がレベル4であることから欲を掻いてレベル3──そうでなくてもなんとか魔神化を遅らせてレベル4までに手前を取りたい。
それ以後は手前奪取にインプルスゼーレを割かねばならない、なんて事態に陥りやすく正直割に合わないというか──
(しんどいんだよな)
兵士より先に行き、横合いから風をぶつける。
少し逆端まで描き切れなかった分は、ミクサが描いたほぼほぼ同じタイミングの焔に焼かれダウンしている。
(お互い何も意識してない筈なんだけどな)
片方がはやすぎれば片方が外れていた筈の軌跡に、正直感嘆まで抱く。
端の兵士がダウンしているお陰で、シレネッタの水しぶきを避け、マリクの渦に当たらないような位置に下がってから次を描いても進軍が間に合う。
(ん────もう少し奥だ。っていうか、敵が2人とも邪魔だ)
次の兵士を処理したいけれど、風の範囲に兵士が来ず風が僅か手前を掠めてしまう。
自分が下がっているのが悪いともいえるし、マリクもシレネッタもこちら側に寄ってきているから出られないとも──
「ん……」
味方兵士の間を豪快に横切って──ピーターに見て見られてをしている状況であれば敵も兵士処理が出来ないと分かっているのか──ミクサがこちら側にとことこと歩いてきた。此方の兵士処理の風が掠めるのを見送ってから焔を描く。
(わー助かる……)
対面を嫌ってシレネッタが逆サイドに逃げて行ったので今回は大兵士の位置もあって移動しなかったが、シレネッタがそうしなかったら自分が逆サイドに逃れる道もあっただろう。兵士処理と兵士止めのタイミングがずれているのも、ドローサポーターとしては非常に有難い。
中央に居座るミクサに頷き返し、シレネッタの居ない側へ俺は大きく横に出た。
マリクのストレートショットは我欲の関係でそもそも当たりたくもないけれど、線は細い。
レベル2、纏う風をミクサに分けながら誘う。蒼い光弾が直ぐ横を掠めた。
「ッ、其処!」
サポーターがアタッカーに歯向かっちゃいけませんの文言も投げ捨てて銀色の銃を抜き打ち抜く。
よし、ダウン奪っ──!
倒れたマリクの上にシレネッタまで吹き飛ばされてきた。目を丸くして横を見る。
「……どうも」
手前拠点の目の前。
自軍の兵士はもう1体しか残っていない状況でふたり同じ場所に吹き飛ばされて。
これがレベル2なのである──欲を掻いてレベル3とか言う前に、マリクの魔神化ゲージは1cmもない。
「へへっ」
どんびくくらいに順調だ。そりゃもう、上機嫌だった。
──それだけで終わらないのがこの相方なんだけど。
丁度少し前に、対面のミクサがフレイムショットを抜いていると少し安心するなんていう話をした。
手ぬぐいを使って何回もブリンクで飛び込んでヒートインパルスしてくるのだって脅威ではあるし、兵士ごとラインフレアで焼かれるのだって相当に理不尽を感じるのだけれど。
本当にどうしてこのスキルを少年が恐れているのか、それを体現して魅せるのが彼女だった。
味方の兵士が走り出した。
突撃姿勢を始める味方兵士。敵軍は拠点からでたばかりの4体兵士が拠点と重なる位置に、城からの9体列は未だ拠点より後ろ。もう突撃を阻止できる隊列はいない。
であれば、シレネッタもマリクもその兵士を少しでも減らす為一刻も早く兵士処理をするしかない。
奇しくも、二人とも"同じ座標"で。
「そこでずっと燃えていて……」
勿論其処を彼女は見逃さない。灯された松明はふたりの命を燃やす。
マリクは後ろに倒れるように飛び退ったが、前に逃れようとしたシレネッタの目の前には一陣の風。
人魚の甲高い悲鳴が響き渡る。
レーナーが居なくなった手前拠点に、次の9体列が迫る。
兵士を拠点前に進軍させまいと身を挺して前に出るピーターを止めねば確かに手前拠点は喪われるだろう。
だが、欲を掻くその様をやはり彼女は見逃さない。
「──もうひとつだけ、点けるよ」
ストレートショットの後隙に差し込まれた火が、マリクを焼く。
今度は逃れきれず少女の追撃に、マリク迄灰燼に帰してしまった。
(過ぎた欲望は身を滅ぼす、ってかよ)
思わず浮かんだ言葉はジーンのそれ。
「それじゃ──右に行くね」
「ん、了解。それじゃあ風と──ゲートも森ん中置いていくぜ」
彼女を見送る。きっと直ぐ戻ってくることだろうけれど──。
彼女は誰よりも勤勉で、働き者で、そして誰よりも隙を見逃さない。
ドローの後隙にフレイムショットを差し込むため森で敵の兵士が移ろうのを待つし、虚を付いてインパクトで喰らう為に裏へ回る苦労も厭わない。
マリクの絨毯に無敵がないのを分かっていて、インパクトで撃ち落としても見せる。
(中央巨人が居なかったら特大狙えたかなあ……)
そんな欲を掻く前に、味方拠点がすべて残ったまま落城してしまった。
もっとスマートに勝てたかもしれない、なんて贅沢を考えられるのは相方が頼もしいからだ。
それは違いない。けれど、恐らくきっと──相方が望むくらいには、俺も応えられた戦いだったからだ。
(か、解析用に保存して帰ろ……)
「ピーター」
何時もいつも恐ろしくも愛おしく頼もしい少女が、瓦礫の城から戻ってくる。
きらきらと輝いた瞳で、なんてことないように彼女は言うのだ。
「暖かい暖炉の前で、チョコ……食べよう……?此処の床は冷たいから」
「──!おう!」
Special Thanks gαмι/§Θさま/ミクサ