「連戦か。ふむ……ファイターに乗るかもしれんな」
「──あの方乗れるのか!?」
「知らんのか小僧。彼はメインファイターだぞ」
「だが、まあ──」
「オレ様の出番か!」
「美猴を選ぶ、というのであればピーター。求められているのはお前だ」
「……うん」
「決めて来い、小僧!」
美猴とピーターのペアリング、通称猿ピは昔から長らく親しまれてきたアタッカーとサポーターの組み合わせである。優秀なストレートショットの近接型のアタッカーの唯一の弱点であるリーチをスピードで補うという発想は、敵キャストを撃破したときにチームゲージに与えるダメージを上昇させるスキルの存在も相俟って縦横無尽にレーンを駆け巡りキルを稼いで荒らす戦いを強固なものに仕上げている。
実際、美猴というキャストは全国大会での優勝常連でもあるらしい。その相方がすべてピーターだったかどうかまで、少年は確認してはいないが。
(昔の動画、ちょっと見るハードル高いんだよな。あんまり時間もないし……)
何時か見る時間が取れたらいいな、と思いながら支度を始めた。
(対面はダイヤのナイトメア、ルビーの──このローザさんは見掛けたことがある)
ラインローザ、愛称ローザ。
フックから"気合"を、吉備津から"不撓不屈の位"を教わった、未だ有名ではないものの強力な対サポーター向きの中央ファイターだ。最終盤まで気が抜けない吉備津、獲物を絡めた事故要素に警戒しなければならないフックとの違いは、優秀なストレートショットの脅威か。一方でアイアン・フックより"気合"の発動可能レベルは遅れることになる上、ドローショットの火力そのものは低い方らしく兵士処理には"嘘つき狂詩曲"の援けを途中まで借りるのが一般的らしい。
「これで過剰にドローショットの火力が盛られてたりすっとちょっとしんどいんだけど」
ちら、と見る。カイ新兵銃赤本──ひと昔の俺と其処まで盛ってある値は変わらないかな。
もしかしたら、最序盤だけは兵士がダウンしない分サポーターの方が兵士処理が速いかも──
(や、そんなことを言い出して実際に出来てしまうのは一部の先輩だけだ)
脳裏にドロシィとユクイコロが浮かび上がった。頭を振って彼女達を追い出した。
そうそう。
猿ピというのは端を荒らす為のペアだ。
レベル2で留守番をすることもあるし、対面ローザという事も相俟って序盤に手前を奪うチャンスを呼び込むことだって求められる。
(レーナーとしてのピーターの技量が一番求められるペアリングでもある、と思う)
少年は緊張しながら配置についた。兵士より前に出、横から風を送り込み兵士を倒す。
猿のドローでダウンした兵士が起き上がる頃を見計らって2発目はもう少し内側から。
猿と牽制しあっていたナイトメアが風に押し出されてSSも受け、ダウンしたのは有難い。
(対面のドローはダウン属性だから確り避けていかねえと)
サポーター同士だとドローはよろけ同士、なんてことも多いけれどファイターだと寧ろ逆だ。
緊急回避は兵士処理のドローに重ならなさそうな方向へ。
兵士処理はうまく出来ている方な気がするのだけど、バフを撒く時間分押されそうだ。
相方に夢風を渡した後は、ウィンドゲートを補助として傍らに置きながら兵士処理を再開だ。
後隙を狙われて殺意ドローをぶつけられたのは痛かったけれど──
「せやあっ!」
「きゃっ」
(──あの数秒で裏に回ってるんだ、すげえや)
そのゲートにナイトメアが気を取られてこちら側に移動しようとした一瞬で、相方は兵士裏に回っていて。ローザを如意棒で吹き飛ばしている。気付かずゲートをナイトメアが殴り始めた頃にはすっかり陣取っていてひとつ奥の兵士を枯らし始める始末。
「悪いけど届かねえぜっ」
ウィンドゲートは見た目よりちょっぴり図体がデカい。
明らかに壊す気満々のナイトメアを銃で追い払い、後隙を狙ったローザのストレートもゲートに吸って貰って兵士処理を再開だ。嘘吐きの後隙をゲートの後ろから狙いすますのも忘れない。
(こういうの、ミクロの戦いしてるって気持ちになってドキドキすんな──!)
兵処理のドローに引っ掛かってよろけたナイトメアに"吸命の術"を仕掛ける構図も中々アツい。相方がよく見ている。心惜しくも距離が足らずステップで避けられてしまったけれど。
「夢風渡していいか!」
「おう!詰めるぞ!」
ナイトメアが逃げ腰になった。──行ける。奪える。
こういうときの美猴は本当に生き生きとしていた。
ダウンしたローザを置いていってしまったナイトメア。
もっとも、"おいていかざるを得なくした"のは美猴だ。
風が後押しする脚で戻ってきた美猴が、共鳴で癒した体力の上からローザをねじ伏せる。
ナイトメアが風を紡いで戻ってきても、間に合わない。
如意棒で森の中へ押し込まれたローザには、兵士を盾にする事すらさせて貰えないのだ。
(4-3が長いな──)
ミニマップで美猴がそのままナイトメアを叩き伏せようとしているのが見える。
悠久のアイアン・フックはシュネーヴィッツェンの命を奪ってまで悠久を強奪していたし、刹那のパピールに至っては──
(あのまま奥に雪崩込みそうなんだけど。何なんだあのパピール姉ちゃん……?)
少年は考えて、敢えて兵処理をサボった。敵巨人の出現を遅らせられるかもしれない。
巨人は結局刹那が雪崩込む前に中央レーンに現れたが、ナイトメアと美猴はもつれ込んだ末に刹那レーンに雪崩れ込み美猴がレーンに現れた事でパピールによってマァトが獲られ
「器が違うのよ」
「どうだ、恐れ入ったか!」
ナイトメア迄食われる一部始終が通達され──
「じゃ、俺は一旦帰るとしますか!」
後は負け筋を潰すだけ、となれば目下の問題は猿ピ最大の課題"中央巨人"だ。
残り数体分だった兵士を拠点に送り届け──少年は帰城の魔法を呟いた。
* * *
強力なスキルの解禁が3だの4だのする関係もあって、対ファイターで最序盤レベル先行はかなり強いですね。
なんなんだあのパピール姉ちゃん……?隆盛する前にすべて滅ぼしてんだけどよ……?って面は試合中してましたが
支度中の小難しい事はそんなに実際には考えてません。二人の少女を思い浮かべて首を振ったのはマジですが。
本当に4-3が長かった。後刹那森から刹那レーンに雪崩れ込んでしまったのがすべてを決めてしまった感じがします。
この後攻撃巨人の対応をしくじって危うく特大削られそうになるのは内緒。焦らずローザのDSを回避しながらSS投げ込めたから良かったものの……
お前其処でローザがDSじゃなくてSSだったら完全敗北1列突っ込まれてますわよ……みたいな……
その内サポーターの休日もSSにしますか……?でもあれは最初から最後まで宇宙なんですよね……宇宙です……
Special Thanks redleafさま/美猴
夜猫さま/パピール
アウトロウ/アイアン・フック