幾ら手前拠点を先取しても、レーナーを失えばあわよくば取り返される恐れまである──ナイトメアはじりじりと後退っていた。微睡みの粉に誘われ、兵士ごと巻き込まれて眠ってしまうような事があればそのまま射貫かれるのが必然の定め。そうでなくても、迂闊な隙を晒してはあのエピーヌのバフの恩寵を受けたダブルショットが兵士さえ散らして飛んでくるのだ。
(雌伏の時もいい加減終わりだ)
それでもレーンを下げるだけで済んだのは
ジョーカーのレーンが押せているからだろう。完全に詰めることなくロビンが姿を消したのを確かめる。
(あっちは──マジかよ。
本当に油断のならねえ)
一時の幻夢/エンドルフィンに身を浸し、先に動いたロビンと違う勝ち筋を見出だし、掴まねばならない。しかし、ナイトメアが見たのは──最序盤、確かに押されていた筈であった敵のジーンが担当する手前拠点をほぼ無傷で護りきり味方のサンドリヨンから拠点を奪い取ろうと肉薄している姿であった。
「そらッ!」
森から顔を出し牽制を試みるが、流石に場と時が悪いか。ストレートショットで弾き飛ばされ森の中に派手に転がる。
「……ちぃ」
注意チャットが出るような状況ではなかった筈だ、それにしては冷静過ぎる対処を受けナイトメアの口からは悪態が、その心からは高揚の感情がこぼれていた。
「やるじゃねえか、ジーン。だが──勝負はもう少しだけ後だ、必ず貴様に悪夢を届けてやる」
森の中から見据える狩人の瞳、その視線はジーンではなくひとり中央を進めるエピーヌに向けられていた。
「光はだんだん、暗くなるの」
「月よ、暗闇に道を示せッ!」
戦場に拡がる微睡みの粉。薄闇を穿つ一閃の月影の矢。
光を奪い、闇を照らす攻防のなか──メイディはじりじりと後ずさっていた。
場に留まる兵士の数の関係上、兵士処理能力への差が然程無いふたりはどうしてもロビンが盤上に居た間の差を埋められない。
拠点前に立ちふさがる兵士が夢色の粉に吹き飛ばされ、メイディは拠点裏に隠れることを考えた──
「──メイディ!」
「!」
少年が張り上げる声色にはっと新兵は顔を上げた。
より有利を取ろうと、レーン横に出てきているエピーヌの姿が前に見える。
攻められているようでいて──違うのだとその声が背中を押してくれている気がした。
「──了解したッ!」
兵士達と共に前へ。粉が自分を襲うかもしれない?
それは確かに危険だが、だが同時に好機でもある事に既にメイディは気付いている。
「そうだ──私から目を離すな!」
彼女とエピーヌを跳び越えて、その背に悪夢が降り立つから。
「ま、ざっとこんなもの
──悪いな、勝負は非情なもんだ」
エピーヌを狩り、その返す刃でジーンを仕留める。狩人の算段は寸分の狂いなく達成された。エピーヌの死からジーンの後退判断までは迅速なものではあったが、それでもエアウォークからは逃れられない。
下拵えを済ませる間に完全に手前拠点を奪われそうになっていたサンドリヨンのカバーの為、拠点裏で兵士を枯らしながら独り言つ。
「ま、まだこんなものじゃないだろ?
次の試合はまた味方に来て楽させてくれてもいいんだぜ。あばよ」