1910

熱・喉・鼻に ~鼻炎丸~

by
おぱんにゃにゃ
おぱんにゃにゃ

見やがれ!山をも崩す
オレっちの、オレっちの…

はっくしゅッッ!!

ぶわっと放たれた空気の圧が
地の草花を
放射状に押し倒し
山の木々はざわめき
鳥が何羽か落ちた。


金『ずずぅうう…っ!す、
相撲どころじゃねぇや…!
こ、こりゃあ…
死人が出る!

4月。

入学、入社、引っ越し、桜…
そして、花粉の時期。

お伽噺の国とて、例外では
なかった。


金『なんとか…しっかし
どうやって…むん?』

快男児は己が右腕を見やる。
そこにはしかと、使い込まれた

マサカリが鈍い光を放っていた…

………

……


金『そぉりゃそりゃそりゃぁ
ああああああ!!』)))ガンガンッ

マサカリは、木を切る道具。
決して人をぶった切る物では
ないのだが、今ようやく本来の
用途で怪童丸は腕を打ち込む。


バキィ

バリバリバリ……

ずどぉおおおん

音をたて、大杉は
地響きと共に大地にひれ伏した。
辺りに舞う、土煙と花粉

金『げぇっ…は、はァ…
ぶぁあっくしょいぃッッッ!!』

襲いかかる鼻炎。
焼き付く灼熱の痒み。
体中の関節は痛みを訴え
頭の芯はぼうっと、雲がかかった
ようにぼんやりとしていた。

金『た、耐えろオレっち…
こ、この調子でぃ。次は、あ、
あの木をゥ…っ』


その足取りを拒むかのように
巻き起こった風が、多量の花粉を
舞い上げ視認できるほどの

黄色い渦となって襲いかかる!

金(母ちゃん…ごめん……
杉には、勝てなかったよ…!)

死を覚悟した。


『めらめらバーン!』

熱気が一瞬にして
周囲を覆い、黄色い塊ごと
木々を焼き付くした。


リン『水くさいですわよ怪童丸さん。
加勢しますわー!』ズズーッ

金『おおっ、金持ちの嬢ちゃん!
ありがてぇ!』ックショイ!

鼻水でずるずるになった顔を
赤く腫れ上がった目に向ける。
共闘の理由を語らずとも、それで
充分だった。貧富の差を越えた
絆が今、花粉によって結ばれる。

リン『お金で解決できない事が
2つ、ありますの』ボゥ…

リン『花粉を治す薬と…
マッチング運ですわー!!』
ボォオオオッッッ

『面白い余興のようだな』ザッ

金『アンタは…王様!』

余『砂漠の国を緑化する為
杉を大量植樹したは良いが…
民が全て花粉症になってしまった』

金『ダメな王様だなオイっ!』

余『伐採しようにも杉の輸入で
金を使い果たしたのだ…
今思えばなぜ砂漠で杉が育ったのか
判らぬ。あれはヤバいマジで』

金『ところで…その格好は?』

余『見て判らぬか、
マスクを
着用しておるのだ。
王自ら
手本を見せていると言うのに全く
誰も着けようとせぬ。そもそも
緊急事態宣言以降、余は毎度
欠かさずタイトル画面で
マスクを
着用せよ
と言うておるでは
ないか。何故だれも着用せんのだ
貴様らは頭の中身まで

おとぎ話なのかッ!』ワンダァアァ

金『グチ多いなッ!』

ぶわっとまた、花粉が
コチラに飛来する…

余『はぁッッ!!』(支配者の威圧)

王が声をあげると、花粉は何かに
弾かれたように辺りに散った。

金『すげぇ…』ズズー

余『ソーシャルディスタンスも
確保できるぞ』(威圧)

金『とことん有能。よっしゃ!
3人揃えば矢も折れねえ!
行くぞオメェら!』ックション!

『力任せでは、日が暮れて
しまうわ…』ウネウネ

金『今度は…エピの姉ちゃんか!』

エピ『植物には植物の事情が
あるの…それを人間の都合だけで
切り倒すなんで酷いわ…
と、兄さんが言ってるわ』

リン『花粉症には花粉症の
都合がありますのよ』ズズー

余『貴様…ちゃんとマスクを
しているなエライぞ』

金『アイマスクでも良いんかいっ』

エピ『私は別に花粉症じゃないわ。
でも…兄さんが』ウネウネ  クシュンッ!

金『植物が花粉症とは…!
さすがワンダーランドでぃ。
ていうか鼻ねぇだろ兄さん』

エピ『兄さんは争いを望んでないの。
でも話し合えばきっとわかる』

そう言うと彼女は兄さんと共に
杉の根本まで移動する。
やがて、その幹に手を当て…

金『か、会話してやがる…!』

リン『アメイジングですわー』

エピ『…!?』

森中の木々が、揺れた。

エピ(な、なに…これは…!)

エピ(言葉が…
通じない!?)

彼女の目は、光を見る事は
できないが心を見る力がある。

杉の心は、黄色い靄…
花粉で覆われていた。

こんな事は初めてであった。

エピ(兄さん…ええ、そうね。
言葉が通じない。ただ、それだけで

戦争は起きるのね…!)

キッと顔を上げると、エピーヌは
こちらを向いた。
そして、毅然と言い放つ。

エピ『みんな…切って!
この木は…杉は…

悪魔の植物よ!』エピャァアア

そう言い放つと、兄が体を大地に
深々と突き刺す。

その周囲から産み出された
おびただしい量の茨が、
あれよあれよと杉の木々に絡まり、
締め上げる。見れば、茨は心臓の
ようにドクン、ドクンと脈を
うっていた。


金『まさか…養分を吸い取って
やがる…!?


余『見よ!葉が落ちてゆくぞ!』

リン『無血戦争ですわー』

エピ『…!?』

ふっ、と茨が緩む。

リン『兄様が辛そうですわー』

金『あの方法だと杉の中心から
移動できねぇ、花粉をモロに
食らっちまう!』

兄さん、兄さんとエピーヌが声を
かけるが涙の止まらぬ目を猛烈な
勢いでかきむしる兄には届かない。
痒みが兄妹の絆を引き離した。

無慈悲な滅びの粉が今、
二人に降りかかる…!

金『エピ兄ぃいいいい!!』

降りかかる……

降り、かかる……

……


かからない。遅い…?

ホオリ『間一髪じゃったの』
  \\刻限解放//

金『火遠理っち!』ハックショイッ

ホオリ『鶴は千年、亀は万年!
杉は二千年くらいかのう…
儂と良い勝負じゃ!』

エピーヌたちを避難させ、
杉の中を悠々と闊歩する火遠理。
やがて刻限解放は切れ、花粉が
火遠理に遅いかかるが本人は
まるで支障なしという風である。

金『花粉、平気なのか…?』ズズー

ホオリ『バッキバキの花粉症じゃ!
しかし人間、歳をとると体の痛みが
遅れてやってくるものじゃからな。
5~6月くらいに儂は
のたうち回るじゃろう』

金『人体ってすげぇな』

それはそうと…と、火遠理は背中の
玉手箱に手をかける。

ホオリ『この箱の中身を皆に見て
貰いたいのじゃ!』パカーン!

モクモクモク…!

金『こ、この煙は…?』

煙に乗って、様々な景色が浮かび
いくつもの声が頭に響く。

ホオリ『玉手箱の煙は、時の流れを
写したもの…今見えておるのは、
花粉に苦しむ人々の記憶じゃ!』

………
……


シレネッタ『せっかく肺呼吸 習得した
のに…う、海に帰りたい…!』ズズー

フック『陸には悪魔の木が蔓延して
おる…俺の船…船の上が
一番安全だ…フフフ』ズズー

スカーレット『最近、ステルス纏っても
位置バレするわ…』ハックシュッ

ピーター『良い風吹かそうとしたら
花粉舞うから止めろって
言われたぜ!』ズズー

ジーン『花粉症を治す薬出せって
言ったらランプ爆発したぜ。
欲張りすぎたか…!』ズズー

妲己『モコモコの部分に超~
花粉溜まるんですけどォ~!』ウケル~

闇吉備津『鼻水たらしてたら
服を着ろと言われた。違う…これは
花粉のせいなのだ…!』ズズー

サンドリオン『12時を過ぎると
魔法(薬)が…!』ズズー

ロビン『あまりに辛いので私の
森の所有権 売り渡しました』ズズー

アリス『こっち(花粉)詰めた方が
威力上がるかなぁ?』ボムバルーン

カグヤ『月に叢雲…花と花粉!』ズズー

温羅『目、カキスギテ、赤イ…!?
モトカラ 全身 赤カッタァアア!
ウラァアアアアア』(照)

ジュゼ『え、ボクって杉の木から
作られたの?…なんかヤダ…!』

ユクイコロ『なあフムフム、知ってる
かい?近年わーの国の雪が
溶けちまっとるんだべ』

ユクイコロ『で、ばば様に聞いたら
杉の木は二酸化炭素をどかんと
吸収するんだべさー』

フムフム『……』

ユクイコロ『みんな杉の木を目の敵に
すっけども、人間のえごぉで山の
カムイをあんまり困らせたら
いかんっしょー』

フムフム『……』

フムフム『花粉症じゃねぇから
んなこと言えんだよ』ズズー

………
……


時の蜃気楼が映しだした
積年の人々の思い。
今その思いは、この場に居合わせた
皆の思いと1つになった。


金『マサカリが…金色に輝く…!』

リン『暖まってきましたわー』メラメラ

余『6周年!アニバーサリーだ
諸君ッッ』


エピ『私がマスクしたら顔面の9割が
マスクになってしまうのよ…!』

ホオリ『うむ!見事に皆の心が
1つになった!

波の如く出陣じゃぁっ!

そして、1つの戦争(物語)が
始まった。
木は突き倒され、炎上し、
掌握でニギニギされ、適度に
微睡んだ。

全てはこの世から鼻炎と
涙を消し去る為にーー

8分後……

金『皆の衆…本当に…
本当にありがとよ…っ!』

戦いは一先ず、終わった。

視界は開け、空からは勝利を
祝福するように小鳥達の囀ずりが
響き落ちる。
全員が死力を果たし尽くした。
MPは切れ、フラグメントは枯渇、
果てにチケットも使い果たした末
の勝利であった。

ホオリ『皆の者、ご苦労であった!
あとは鬼の製鉄島で買った
これの出番じゃな』

火遠理の足元には小さな青い
ロボットが
『ブリキッ クラァアアイ』と
大口から空気を循環させている。
山の空気を清浄しているらしい。

金『でも、これはまだ戦いの
始まりに過ぎねぇんだな…』

杉の生命力は、我々人間の抵抗
など嘲笑うかのように繁殖を
繰り返す。それはまるで
地球との戦いであった。
だが…今日の、ほんの細やかな
抵抗が、何処かで実を結ぶ…
そんな気がした。

『ホッホッホッ!
儂の出番のようじゃな!』

金『?あんたは…』


爺『
枯れ木に花を咲かせ
ましょぉぉうッッ!!



母ちゃん、オレっちは
ここまでのようだ。
がんばったよ?
ごめん。
また、杉の絶えた遥か未来で
会いましょう。


END



















































































 
作成日時:2021/04/19 03:51
カテゴリ
お悩み相談室
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おぱんにゃにゃ
おぱんにゃにゃ
2021年4月22日 2時9分

ヴぁんじゃすとイレブン?!の旦那⊃
このご時世に最も評価されるべきアタッカー!!
電車通勤じゃなく絨毯通勤だから密もねえっ!

おぱんにゃにゃ
おぱんにゃにゃ
2021年4月22日 16時18分

良かった!あってたヴァンジャストイレブンの旦那⊃
火遠理の役回りがほぼドラえもんになってしまった!
ラストらへんの青いロボットは夜叉王型
空気清浄機なんだ!でも亀でも良かったな!
この投稿から一週間近く経ったが
どうやらヒノキが襲来したらしい今絶賛目がかゆゆいゆ

おぱんにゃにゃ
おぱんにゃにゃ
2021年4月23日 1時47分

ヴァンジャストイレブンの旦那⊃
ガタイが良いと風邪はひかんが花粉症にはガタイも
貧富も性別も、ファイターもアタッカーもサポーターも
銅も金もルビーもダイヤもない。みんないっしょ
やさしい世界。いや地獄だ!!せまりくる闇の軍勢は
3~5月にやってくるぞ!皆の衆っ煽ったり捨てたり
してる場合じゃねえぞ!力を合わせるんだ!!

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